島田雅彦 独占インタビュー 第2回
憲法改正が現実的を帯びてきたなか、国民は、
日本の立ち位置をしっかり考えるべきではないか
小説家・島田雅彦が語るこのふざけた世相を生き抜くためのサバイバル・テクニック 第2回
アメリカに守ってもらおうという考えがそもそも間違い
――護憲派に対して、改憲派の人たちは、「もし、よその国が攻めてきたらどうするんだ?」とよく言いますが。
島田 アメリカに守ってもらおうというのが間違っているんです。
中国が尖閣諸島を奪いに来たらとか、北朝鮮が日本に向けてミサイルを発射しようとしてるときに、日本を守らなくてどうするんだ、という人たちに、逆に言いたいのは、そういう事態になってアメリカに守ってもらえるというのは幻想だということです。
日本が攻撃されたときに、アメリカが反撃するという確約なんて取れていないでしょう。ただ、反撃してもらうことを期待しているだけです。
そんな危ない、不確実な安全保障があるか、という話です。おそらく尖閣に中国が軍艦を出動させてきたとしても、それは個別的自衛権で、日本が自分で対処しろという態度を取りますよ。米中の直接的な軍事衝突に発展することは避けようとするはずです。
――暴力に暴力で対応するのはよくないことだと?
島田 いや、私は個別的な自衛権の中で対処するしかないと思っています。仮に中国が強引に尖閣を奪ったとしても、自衛隊が取り返しに行けばいいんですよ。
そのために自衛隊がいるんでしょう。やられっぱなしでもいいじゃないかという人たちもいるでしょう。それでみんながいいと思えば、いいと思いますけど。
それじゃ、嫌だっていう人を黙らせるためにはどうすればいいかというと、個別的自衛権で対処すればよいので、奪い返しに行けと。
私が思うに、おそらくもう奪還作戦はすでにあるはずで、尖閣で自衛隊が防衛のために常駐するよりも、一度奪取させておといて、それを奪い返すというシナリオのほうが成功率も高くなるし、コストも安くて済む。
――そもそも尖閣問題は、石原慎太郎が東京都で買い上げようとしたのがきっかけで、表面化したわけですよね。
島田 それまで自民党はこの問題を穏便に解決しようとしてきました。領海の侵犯があっても拿捕してすぐに送り返すということをやっていた。尖閣の問題を顕在化させないという申し合わせが鄧小平との間であった。
いわゆる棚上げですよね。それを石原慎太郎が都で買うと言い出して、結局それに乗せられた形で野田内閣が国有化したわけです。
アメリカの立場で考えるなら、無用な米中軍事衝突は意味が無いと思っているでしょうし、中国側としても現状の東アジアの戦力を比較したらまだアメリカには敵わないので、よっぽど体制がギリギリな状態になって、一発逆転を狙うといったことがないかぎりはやってこないでしょう。
そこで、最終的にアメリカが狙っているのは、日本と中国の仲介役だと思います。停戦交渉のお膳立てですね。日露戦争のときと同じことをアメリカはやりたいだけ。
アジア利権をロシアと日本に取られないように、うまく戦わせておいて、それを最後に仲裁するという形で、アメリカは漁夫の利を得たわけですね。
日中で軍事衝突が生じた場合、アメリカが狙ってくるのはそこでしょうね。
――『仁義無き戦い』の世界と同じですよね。
昔、同じ作家である山口瞳氏の話として、こんな話を聞いたことがある。いわく、「私は卑怯未練の理想主義者である」と。
そして「人を傷つけたり殺したくないために、亡びてしまう国があったというだけで十分ではないか」。
当時もなかなか言える言葉ではないが、いまの日本であればなおさらであろう。しかし、ほんの少し前までは、こうした覚悟の発言をきちんとできる人がいたのである。
『筋金入りのヘタレになれ』という、島田雅彦。本人がどう思うかは別にして、そんな山口氏のことを思い出した<編集部>