リスキリングを追いかけて「使い捨て人材」にならないように、知っておくべきこと《前編》【大竹稽】
〜デジタルは「ないと困る」思考の「知識だけ」人間を製造し使役する〜
東大理三に入学するも現代医学に疑問に抱き退学、文転し再び東大に入る。東大大学院博士課程退学後はフランス思想を研究しながら、禅の実践を始め、現在「てらてつ(お寺で哲学する)」を主宰する異色の哲学者・大竹稽氏。深く迷い、紆余曲折しながら生きることを全肯定する氏が、今回は「リスキリング」なる言葉に踊らされるビジネスパーソンに警鐘を鳴らす。【前編】
◾️リスキリングの目的っていったい何?
これに先立つこと3回、リカレント教育追従への警鐘を鳴らしました。しかし、リカレント教育以上に不穏な動きがあります。リスキリングです。
「リ」から始まる新しいカタカナ語だからでしょうか、両者は混同されることもあります。が、リカレント教育においては手段として問題だったことが、リスキリングでは目的、目指すところが危ういのです。
リカレント教育に対するリスキリングのメリットとして、デジタル・イノベーションと生産性と効率の速成向上、そして短期集中講義によるスキルアップが挙げられます。現在、多くの企業が、デジタル技術の著しい進歩によるビジネス環境の激しい変化にあたふたしています。このスピードに応じることが最優先。ですから、リカレント教育ではまだ可能だった数年かけての人材育成など、そもそも眼中にありません。予想もしていなかった変化スピードに対応し、データとデジタル技術を活用してビジネスモデルを変革することが、昨今の企業の至上命題とされているのです(これも思い込みですが)。
世界に目を向ければ、リスキリング革命(Reskilling Revolution)なるものは、相当前から始まっています。第四次産業革命、AIを活用した技術革新などとも呼ばれますが、スイスのダボスで毎年開かれている世界経済会議では、2018年から「リスキル革命」セッションが開講されています。2020年のセッションでは、「2030年までに全世界で10億人をリスキリングする」と発表されました。これに応じるように2022年10月、岸田文雄総理は所信演説で「リスキリングに今後5年間で1兆円投入」と表明しています。
「革命(Revolution)」「革新(Innovation)」という、いかにも最先端好きなビジネスマンたちを虜にするワードが誘導するこの動き。さて、あなたはこれに盲目的に追いかけますか?その行く末を想像していますか?
「ビジネスモデルの変革」は、DXに応じることですか?「ニュー・スタンダード」とか「新しい必要」なんて言葉で煽ってきますが、その「新しさ」そのものが思い込みかもしれませんよね?新しいものに飛びつく以前に、「生産性や効率」そのものを見直す必要は、ないんでしょうかね?