僕にはテーマがない【森博嗣】新連載「日常のフローチャート」第12回
森博嗣 新連載エッセィ「日常のフローチャート Daily Flowchart」連載第12回
【意味がないものが面白い】
一人で工作室に籠もり、日々暗躍している。修理をしたり、組み立てたり、切ったり削ったりして、ものを作る。上手くいくと嬉しいし、上手くいかないと溜息をつく。だが、目的はない。なにかをテーマにして作っているのではない。だから、人が見たら「そんなことをして何の意味があるの?」となる行為といえる。
僕から見ると、大勢の人が求めている「意味」というものは、単なる「言葉」でしかない。実体のない「物語」でしかない。でも、悪いとはいわない。偉大な人の言葉でも、アニメの主人公の言葉でも、それを聞いた人の心に響けば、そう、一時的には「意味」が生じるだろう。「テーマ」も、「意味」も、所詮その程度のものだ。
その言葉を聞いて、心に響いたとおっしゃる当人が、次に何を作り出すのか、という点に僕は注目する。それがその人の「価値」だと思う。テーマや意味などなくても、その価値は面白いし、楽しいし、たまには新しいものを生み出す。その可能性だけで充分だ。

文:森博嗣
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「無事」を重ねることが、人生の成功である。少し気をつけていれば、誰でもできる。ときどき予期せぬ不運が襲ってきても、また少しずつ無事を重ねて挽回していけば良い。勝たなくても良い。負けても良い。またの機会を待てることこそが、成功の価値なのである。(第35回「充実した人生に唯一必要なもの」より抜粋)
◉人生はプログラミング◉水を差しにくい社会◉話し上手と書き上手
◉老人になっても社会人である◉余計なものを持つことの価値
◉気持ちという質量◉「潔癖社会」純度上昇中◉ジェネラリストは存在しない?
◉どうなれば成功なのか?◉適度な自己中のすすめ◉アイデアを思いつける人
◉思いつきの手法◉新しい価値は無駄から生まれる◉頭は知識で肥満になる
◉楽しければそれで良いのか?◉効率か快適か、それが問題だ
◉自己利益が最重要な方針◉作るために必要なこと
◉一人でいることは、自由の象徴◉充実した人生に唯一必要なもの
◉AIが活躍する未来って?◉的確な質問をする能力
◉ネットのモラルはこれから◉フィクションを楽しむ条件
◉いつ死んでも良い生き方とは etc.