僕にはテーマがない【森博嗣】新連載「日常のフローチャート」第12回
森博嗣 新連載エッセィ「日常のフローチャート Daily Flowchart」連載第12回
【意味がないものが面白い】
一人で工作室に籠もり、日々暗躍している。修理をしたり、組み立てたり、切ったり削ったりして、ものを作る。上手くいくと嬉しいし、上手くいかないと溜息をつく。だが、目的はない。なにかをテーマにして作っているのではない。だから、人が見たら「そんなことをして何の意味があるの?」となる行為といえる。
僕から見ると、大勢の人が求めている「意味」というものは、単なる「言葉」でしかない。実体のない「物語」でしかない。でも、悪いとはいわない。偉大な人の言葉でも、アニメの主人公の言葉でも、それを聞いた人の心に響けば、そう、一時的には「意味」が生じるだろう。「テーマ」も、「意味」も、所詮その程度のものだ。
その言葉を聞いて、心に響いたとおっしゃる当人が、次に何を作り出すのか、という点に僕は注目する。それがその人の「価値」だと思う。テーマや意味などなくても、その価値は面白いし、楽しいし、たまには新しいものを生み出す。その可能性だけで充分だ。
文:森博嗣
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森博嗣先生が自身の日常を観察し、思索しつづけた極上のエッセィ。「書くこと・作ること・生きること」の本質を綴り、不可解な時代を見極める智恵を指南。他者と競わず戦わず、孤独と自由を楽しむヒントに溢れた書です。
〈無駄だ、贅沢だ、というのなら、生きていること自体が無駄で贅沢な状況といえるだろう。人間は何故生きているのか、と問われれば、僕は「生きるのが趣味です」と答えるのが適切だと考えている。趣味は無駄で贅沢なものなのだから、辻褄が合っている。〉(第5回「五月が一番夏らしい季節」より)。