「超」だの「ド」だのがついても由緒正しい言葉がある【呉智英】
「日本語ブーム」の今、見落とされてはいけない「日本語の真実」
◾️ただし「超ド級」は根拠のある言葉
今の例とは逆の例も紹介しよう。
●来春封切りの映画は超ド級の迫力ある戦争巨編らしい。
「超」だの「ド」だの、軽薄で下品な言葉だ、と思う人が多いだろう。「超」は安易で無教養な女子高校生言葉として識者の顰蹙のまとだ。「ド」は強調の接頭辞だが、「ど百姓」「ど助平」など、卑語として使われる場合が多い。その「超」と「ド」が重なるのだから、特に下品だと思えるのだろう。中には、「超弩級」が正しいと言う人がいるかもしれない。しかし、「超ド級」は根拠のある言葉なのだ。今世紀初め英国海軍が造った大型戦艦ドレッドノートを基準にして、それを越える巨大戦艦を「超ド級」と呼んだ。これを物事の大きさの譬えに転用したのである。「超弩級」は、これを漢字に訳したにすぎない。
【補論①】
読者から、「弩」の字には意味があるという手紙をいただいた。弩は、大型の弓のことだから、軍艦にこの字を当てたのだという。漢字は表意文字だから、音訳するに際し、意味もそれらしい漢字を使う。その点では、確かに「弩」の字の選択に意味があると言えよう。
【補論②】
最近、意味もなく「もの」「物」を「モノ」と書く風潮が広がっている。一流の全国紙にも「そういうモノだ」などの表記が目につく。何にもモノを考えていない記者がふえているのだろうな。「物」を「モノ」と書くのは、小物紹介の「モノ・マガジン」(ワールドフォトプレス)から広まったのではないかと、私は見ている。プロの記者なら、ちゃんとモノを考えて書くモノだよ。
(呉智英著『ロゴスの名はロゴス』より抜粋)
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