なぜ、職場改革をしても、社員は辞めていくのか?(後編)
会社が進めるピント外れの職場改革の現状
●低迷する若手や女性の昇進意欲
最近は、どの企業でも「女性の活躍」が叫ばれています。女性のリーダーを増やしたり、法人営業に女性の担当者をつけたり、これまでは男性が中心だった職種や職位で女性の登用を増やしていこうという機運が高まっています。
ところが、当の女性に話を聞くと、「リーダーや管理職にはなりたくない」という声が圧倒的です。さらに言えば、女性だけでなく若い男性社員も「管理職は勘弁してほしい」と思っている人が多いようです。
会社としては、次のリーダーや中間管理職を担う20~30代の層が薄くなっており、若手や女性にステップアップしてもらわなければ組織構造が成り立たない状態です。また、管理職自身も上層部から発破をかけられるため、若手や女性に昇進を働きかけています。しかし、なかなかうまくいっていません。
その理由はしごく単純です。若手社員の目に、管理職が楽しそうに映らないからです。「残業はするな」と部下に指導しておきながら、一方で部下が就業時間内にやり残した仕事は上司が引き受けざるを得ず、一人で残業して片づける羽目になります。体がボロボロになるまで働いても、報酬や待遇、やりがいの面では以前ほど報われることがありません。今どきの賢い若者たちは、「そこまでして管理職になる意味がわからない」「管理職になっても自分が損するだけ」と冷ややかな目で見ているのです。
以前は40~50代の女性管理職が少なく、女性社員にとってのロールモデルがいないことが問題でしたが、最近は女性管理職も少しずつ増えています。
ただ、その女性管理職の人たちも、若い女性たちの憧れの存在になれているとは言い難いようです。「管理職=男性的な働き方」というイメージから、「結婚や出産の後に管理職として働くのは無理」「あの人たちのようにはなりたくない」という声が聞こえてきます。
若手や女性の昇進意欲を低迷させているのは、彼らにとって憧れにならない管理職の存在なのです。これは管理職のみなさんには耳の痛い、辛いことだと思います。
●中高年社員を活かしきれない現状
失業率が低下し、ほぼ完全雇用の状態が続いています。多くの企業では人手不足に加え、層として薄い20代後半~30代を補充するため、中途採用に力を入れています。
その一方で、社内でダブついていると言われている40~50代が戦力外通告を受けたり、リストラの対象になったりしています。彼らのやる気がそがれるだけでなく、会社が外から人を採ろうとしているのを見て、会社への不信を募らせています。
これは正しい人事戦略とは言えないと思います。人手が足りないのであれば、まずは今いる社員を最大限に活用すべきではないでしょうか。今いる社員が生き生きと活躍しているからこそ、外からも魅力的な職場と映り、転職者にも受け入れられるのです。
長年その会社に勤める40~50代の人材は、会社の価値観を共有し、自社ビジネスにも精通しているという強みがあります。彼らの個性や強みを活かし、適材適所で活躍の場をつくることで戦力化していくことは十分可能だと考えられます。
中高年社員を切り捨てようとする会社の姿勢は、彼らのモチベーション低下よりも、もっと深刻な問題を引き起こします。そういう会社の姿勢を賢い20代や30代もちゃんと見ているということです。
若い世代は、「想定路線から外れた社員を会社は簡単にあきらめる」というメッセージを受け取ることになります。失敗すれば会社から戦力外通告を受けると知れば、会社の未来を担うはずの若手たちは、リスクを冒してまで挑戦することに躊躇するでしょう。忠誠心を高く持って、会社の未来のために活躍する人がいなくなってしまうかもしれません。
会社が進める職場改革の課題をご紹介してきましたが、ここで取り上げた例は全て、チームや組織があるべき姿からズレたときの軌道修正の話に終始しています。つまり、職場改革とは名ばかりで、その場しのぎの絆創膏のようなもので、根本的な問題の解決に至っていないケースが多いのです。
その理由は、職場にどんな問題があるのか、何のためにその改革を行うかということが、現場に届いていないからです。会社が目指す職場の「あり方」が共有されず、手法やテクニック、制度など「やり方」だけが現場に降りてくることに問題があります。そして、そのことによってもっとも苦労しているのは、会社と現場の板挟みになる管理職なのです。
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