適度な自己中のすすめ【森博嗣】新連載「日常のフローチャート」第27回 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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適度な自己中のすすめ【森博嗣】新連載「日常のフローチャート」第27回

森博嗣 新連載エッセィ「日常のフローチャート Daily Flowchart」連載第27回

 

【もう秋】

 

 草刈りはそろそろしなくても良いかな、という季節。落葉や毬栗や団栗が地面にちらほら目立ち始めていて、ときどき掃いたり吹き飛ばしたりしている。朝も夕方も暗くなって、気温も下がってきた。

 日本のニュースを見ていたら、台風のため停電になり家族で車中泊になった、と伝えていた。どうして車中泊なのかな、家の近くに崩れそうな崖でもあるのか、と想像したけれど、冷房が使えないからという理由だとわかった。まだそんなに暑いのか。もう十数年間、一度も冷房というものを体験していないので、すっかり存在を忘れてしまった。

 住宅が密集し、車も道路で渋滞し、それらがみんな、ずっと冷房されているわけだから、その分、外気は暖められる。冷房は、室内外でトータルすれば気温を上げる装置だということを、たぶん大勢の人が知らないのだろう。エネルギィを大量に消費して、夏をさらに暑くしているのだ。

 

サンルームの中では、ほぼ一年中ゼラニウムの赤い花が咲いている。夜に降った雨でガラスが濡れているけれど、日が上ると毎日晴天。一年を通して、昼間に雨が降ることは滅多にない。

 

文:森博嗣

 

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森博嗣先生のBEST T!MES連載「静かに生きて考える」が書籍化され、2024年1月17日に発売決定。第1回〜第35回までの原稿(2022.4〜2023.9配信、現在非公開)に、新たに第36回〜第40回の非公開原稿が加わります。

 

 

 世の中はますます騒々しく、人々はいっそう浮き足立ってきた・・・そんなやかましい時代を、静かに生きるにはどうすればいいのか? 人生を幸せに生きるとはどういうことか?

 森博嗣先生が自身の日常を観察し、思索しつづけた極上のエッセィ。「書くこと・作ること・生きること」の本質を綴り、不可解な時代を見極める智恵を指南。他者と競わず戦わず、孤独と自由を楽しむヒントに溢れた書です。

 〈無駄だ、贅沢だ、というのなら、生きていること自体が無駄で贅沢な状況といえるだろう。人間は何故生きているのか、と問われれば、僕は「生きるのが趣味です」と答えるのが適切だと考えている。趣味は無駄で贅沢なものなのだから、辻褄が合っている。〉(第5回「五月が一番夏らしい季節」より)。

 

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森博嗣

もり ひろし

1957年愛知県生まれ。工学博士。某国立大学工学部建築学科で研究をするかたわら、1996年に『すべてがFになる』で第1回「メフィスト賞」を受賞し、衝撃の作家デビュー。怜悧で知的な作風で人気を博する。「S&Mシリーズ」「Vシリーズ」(ともに講談社文庫)などのミステリィのほか、「Wシリーズ」(講談社タイガ)や『スカイ・クロラ』(中公文庫)などのSF作品、また『The cream of the notes』シリーズ(講談社文庫)、『小説家という職業』(集英社新書)、『科学的とはどういう意味か』(新潮新書)、『孤独の価値』(幻冬舎新書)、『道なき未知』(小社刊)などのエッセィを多数刊行している。

 

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