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2024年、世界は収拾がつかなくなっている【佐藤健志】

佐藤健志の「令和の真相」50

ロシア軍がウクライナのハルキウ市にミサイル攻撃し、集合住宅などが被害に(2024年8月30日)

 

◆「何でもあり」がもたらすもの

 21世紀の世界では、首尾一貫した現実認識を解体、「何でもあり」の状態をつくりあげることで、物事を思い通りにしようとする傾向が見られる。

 けれども、思い通りにならないことこそ現実の本質的特徴。

 

 おまけに現実認識を解体してしまえば、「何が現実なのか」という根本の点まで分からなくなる。

 「これが現実だ」と断定するには、「現実」と「現実ではないもの」との間に線を引く必要がありますが、「何でもあり」の状態のもとでは、くだんの線引きができません。

 現実認識の解体は、現実の解体とイコールなのです。

 

 裏を返せば、物事が思い通りになっているのかどうかも、本当のところ分からない。

 いや、そもそも自分が何を思い通りにしようとしているのかという点すら分からなくなってくるのです。

 「すべてが思い通りになるはずなのに、すべてが思い通りにならない」という、どうにもならない苛立ちが高まるのみ。

 

 こうして現実認識の解体した社会は、遅かれ早かれ、以下のような顛末をたどることになります。

 (1)現実そのものが解体され、「何でもあり」になるせいで退廃に陥る。

 (2)「すべてが思い通りになるはずなのに、すべてが思い通りにならない」という矛盾と苛立ちから、理性的判断に支障をきたす。

 (3)上記二点の論理的な帰結として、収拾がつかなくなる。

 

 「ワグネル反乱と『現実の解体』」(令和の真相49)で、私は上述のメカニズムが、世界的に進行しつつあると論じました。

 現実が解体されたこのご時世、「ワグネル反乱って何だっけ?」という方も少なくないと思いますが、一年あまりを経て、世界はいよいよ収拾がつかなくなっているように思われます。

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佐藤 健志

さとう けんじ

評論家・作家

 1966年、東京生まれ。東京大学教養学部卒業。

 1989年、戯曲『ブロークン・ジャパニーズ』で、文化庁舞台芸術創作奨励特別賞を当時の最年少で受賞。1990年、最初の単行本となる小説『チングー・韓国の友人』(新潮社)を刊行した。

 1992年の『ゴジラとヤマトとぼくらの民主主義』(文藝春秋)より、作劇術の観点から時代や社会を分析する独自の評論活動を展開。これは21世紀に入り、政治、経済、歴史、思想、文化などの多角的な切り口を融合した、戦後日本、さらには近代日本の本質をめぐる体系的探求へと成熟する。

 主著に『感染の令和』(KKベストセラーズ)、『平和主義は貧困への道』(同)、『右の売国、左の亡国 2020sファイナルカット』(経営科学出版)、『バラバラ殺人の文明論』(PHP研究所)、『夢見られた近代』(NTT出版)、『本格保守宣言』(新潮新書)、『僕たちは戦後史を知らない』(祥伝社)など。共著に『新自由主義と脱成長をもうやめる』(東洋経済新報社)、『対論「炎上」日本のメカニズム』(文春新書)、『国家のツジツマ』(VNC)、訳書に『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき』(PHP研究所)、『コモン・センス 完全版』(同)がある。『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき』は2020年、文庫版としてリニューアルされた(PHP文庫。解説=中野剛志氏)。

 2019年いらい、経営科学出版でオンライン講座を制作・配信。『痛快! 戦後ニッポンの正体』全3巻、『佐藤健志のニッポン崩壊の研究』全3巻、『佐藤健志の2025ニッポン終焉 新自由主義と主権喪失からの脱却』全3巻を経て、最新シリーズ『経世済民の作劇術』に至る。2021年〜2022年には、オンライン読書会『READ INTO GOLD〜黄金の知的体験』も同社により開催された。

 

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