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孤独が好きになる理由【森博嗣】新連載「日常のフローチャート」第34回

森博嗣 新連載エッセィ「日常のフローチャート Daily Flowchart」連載第34回

 

【孤独を愛する人生】

 

 僕はスマホを持ち歩かない。模型やマイコンの制御に使っているだけで、電話としては使わない。SNSもしない。普段は書斎の書棚に置いたまま。緊急時に使用できるように、出かけるときにはバッグに入れるけれど、使ったことは一度もない。

 庭仕事をしているときも携帯していないから、家族も僕を見失っているはず。僕も家族がどこにいるのか知らない。犬だけが、各自がどこにいるかを知っている。

 森の中で一人で作業をしていると、孤独の楽しさをしみじみと感じる。誰も見ていないし、誰とも関係のないことを自分は今している、という充実感。つまり、自分は自分だけのために生きていることが確認できる。

 ドライブが好きなのも、クルマという空間に一人だけでいる感覚のためだろう。ラジコン飛行機を飛ばしているときも、庭園鉄道を運転しているときも、工作室で旋盤を回しているときも、自分だけがここにいる、という感覚に浸れる。これが本当に楽しい。

 ただ、作家として仕事を少しだけしている関係で、この文章のように他者に向けて自分を曝け出す行為で対価を得ている。これが少々の不満でもある。引退して、このような発信を止めることができれば、もっと純粋な孤独の時間に満たされるだろう。

 

自宅は寒冷地仕様のためドアの密閉度が高い。湿度が高いと木材が膨張し開け閉めに力が必要になり、それこそ体当たりしないと開けられない。また、取っ手の金具から屋外の寒さが伝わるので、冬は毛糸のカバーをつけないと握れなくなる。

 

文:森博嗣

 

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森博嗣

もり ひろし

1957年愛知県生まれ。工学博士。某国立大学工学部建築学科で研究をするかたわら、1996年に『すべてがFになる』で第1回「メフィスト賞」を受賞し、衝撃の作家デビュー。怜悧で知的な作風で人気を博する。「S&Mシリーズ」「Vシリーズ」(ともに講談社文庫)などのミステリィのほか、「Wシリーズ」(講談社タイガ)や『スカイ・クロラ』(中公文庫)などのSF作品、また『The cream of the notes』シリーズ(講談社文庫)、『小説家という職業』(集英社新書)、『科学的とはどういう意味か』(新潮新書)、『孤独の価値』(幻冬舎新書)、『道なき未知』(小社刊)などのエッセィを多数刊行している。

 

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