ジュニア新グループは“アイドルの条件”を満たしていない——「HiHi Jets」「美 少年」「7 MEN 侍」解体に想う【梁木みのり】
■そこに身体性、欲望はあるか
このように、「HiHi Jets」「美 少年」「7 MEN 侍」にはジャニーズの歴史、ジャニー氏が作りたかった世界観が凝縮されていた。だからこそテコ入れの対象になってしまったのかもしれないが。3グループに込められていたのは、ジャニー氏が生涯をかけた夢であり、欲望だった。
翻って、新グループはどうか。「ACEes」=エース格、「KEY TO LET」=キテレツな変わり者、「B&ZAI」=楽器ができるアイドルを集めたバンドと、名前の由来はすぐにわかる。そこには表現したい世界観や、誰かの強烈な欲望は感じられない(金銭欲は感じるかもしれないが)。エース、変わり者、バンド、ただそれだけの記号だ。端的に言って薄っぺらい。これでは、ファンの欲望をかき立てることはできない。
そもそも、顧客はあらかじめ欲望を持っていない。アイドルのプロデューサーは、己の中にある欲望をありったけ膨らませて具現化することで、顧客を欲望へと引きずり込んでいく。それだけのエネルギーがなければ、エポックメイキングなアイドルは作れない。
たとえば、K-POPのクリエイティブの常識を変えたと言われるアートディレクター、ミン・ヒジン。彼女もまた、ソフィア・コッポラの映画などを彷彿とさせる、独特の少女趣味的世界観を持ち味としている。大手事務所SMエンターテインメントでの仕事でK-POPの歴史を変えたのち、新興大手HYBEの傘下でNewJeansを手掛け、またもやK-POPのブームをがらりと変えてしまった。その渦の中心には、ペドフィリア疑惑が囁かれるほどの、ミン・ヒジンの剥き出しのフェティシズムがある。
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彼女はHYBE社長パン・シヒョクと敵対し、会社を追われた。パン・シヒョクはBTSを世界的トップスターに育て上げた張本人だが、彼が手掛けるアイドルグループの作品にもまた、鼻血や墓地など、少年が死に近接するようなフェティッシュなモチーフがふんだんに盛り込まれている。さらに、ミン・ヒジンが元いたSMエンタの前社長イ・スマンも、“鹿顔”や“恐竜顔”などいくつかの系統の顔立ちを執拗に好み、彼の欲望を全面に出した人選によって、東方神起や少女時代といったモンスターグループを次々と輩出した。
ジャニー氏だけでなく、世界を席巻するK-POPにおいてもやはりそうなのだ。ジャニー氏の要素を排除しなければならないからといって、アイドルが人を引き込むエネルギー源である欲望の表現を取り去ってしまっては、アイドルそのものの根幹が崩れてしまう。身体性のない、薄っぺらい、大量生産の記号を使い回すばかりになる。そうなりきってしまったら、STARTOアイドルはいよいよ終わりだと言わざるをえない。アイドルの力は、人間そのものから湧き出る力なのだ。それを知らない者に、アイドルをプロデュースする資格はない。
文:梁木みのり(BEST T!MES)
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