ますます大人気のD51が牽引する「SLみなかみ」の旅
ルームナンバーは「D51498」 至る所D51だらけ!乗り鉄垂涎の宿泊施設もオープン
お誘いもあって、久しぶりにJR高崎駅(群馬県)から蒸気機関車(SL)の牽引する「SLみなかみ」に乗車した。しばらくご無沙汰しているうちに駅構内の改装が行われたようで、SL列車の発車する2番線へ下るエスカレータ付近は蒸気機関車の写真や部品のアップ写真などで黒を基調としたデザインで飾られていた。ホーム上も黒い飲料自販機、SLのナンバープレートをあしらった黒の横断幕など汽車旅のムードで盛り上がっている。ホームから少し離れた線路に待機していた蒸気機関車D51は、やがて入換をして、ホームに停車していた客車と連結。いよいよ出発だ。
大きな汽笛とともに列車は動き出す。がくんがくんと前後に小刻みに震えながら進む様は、電車やディーゼルカーとは違った乗り心地。機関車に引っ張られているという事実を体感できる。懐かしい「ハイケンスのセレナーデ」のメロディーが流れ、車内放送が始まる。ブルートレインがなくなり、この客車列車専用のメロディーを耳にすることができるのは、こうしたイベント列車だけになってしまった。
高崎問屋町、井野と駅を通過。「SLみなかみ」は快速列車なのだ。各駅のホームの端にはカメラを持った鉄道ファンが汽車を見送ってくれるし、踏切や線路際には鉄道ファンのみならず、子供連れや汽笛を聞いて飛び出してきた沿線の人たちで賑やかだ。SL人気は衰えることがない。
新前橋駅に5分停まり、平地を快走して渋川駅に到着。ここからの急勾配に備えるかのように、汽車は27分も停車する。その間に、後続の特急列車や観光列車「リゾートやまどり」それに普通電車が次々と発車していく。電車を撮影する者、機関車の前で記念撮影する者などホームはお祭り騒ぎのようだ。
運転を再開すると、列車は利根川を渡り、左にカーブして、いよいよ渓谷に沿って喘ぎ喘ぎ進んでいく。両側の山も迫り、車窓風景も一変する。やがて汽笛と共にトンネルに突入。窓を開けて景色を楽しんでいた乗客が慌てて窓を閉める。古い客車なので、スムーズに閉められなくて車内に煙が充満して大騒ぎだ。
お弁当やSLグッズなどの車内販売のワゴンが通り過ぎ、やがて車内でクイズ大会が始まる。○か×かといった単純なクイズで、挙手して競う。正解者が多数のままだと最後はジャンケン大会だ。景品をゲットした人は大喜び。なかなかの盛り上がりである。
尾瀬への玄関口のひとつである沼田駅では6分停車。NHK大河ドラマ「真田丸」ゆかりの地でもあるので、関連観光地をめぐる観光客が何人も降りていった。外国人のグループが発車していく列車を、大げさな身振りで表情豊かに見送ってくれた。
列車を牽引しているD51形498号機が長い間静態保存されていた後閑駅に停車すると、いよいよ水上めざしてラストスパートだ。渓谷の前方には険しい谷川連峰が姿を現わす。最後は、温泉街の間を縫うように走り、旅館の女将をイメージしたピンクの衣装に身をまとった「ゆるキャラ」、駅長さん、旅館の関係者大勢の出迎えを受けて列車は水上駅に到着した。
とりあえずは、駅から歩いて数分のところにある転車台へ。客車を切り離した蒸気機関車は単独で転車台に乗り、方向転換をして帰りに備える。機関車を整備する場所は公園になっていて、皆自由に撮影したり眺めたりして過ごす。
遅めの昼食をとり、のんびり時間を過ごした後、帰りも「SLみなかみ」で高崎駅へ戻る。そのあと、駅に隣接するホテルに案内され、2016年10月にオープンした特別室を見学できた。この部屋のルームナンバーはD51498。往復した「SLみなかみ」を牽引した機関車のナンバーである。そのナンバープレートのレプリカが部屋のドアに取り付けられ、中に入ると、至る所D51だらけであった。機関車を大写しにした壁紙。部品をさりげなく、机や調度品に取り付け、バスルームの中もSLが大写し。ファンは大喜びだが、興奮して寝られないのではないだろうか、と余計な心配もしたくなる。お値段もツインで51498円と何から何までD51498づくしであり、笑ってしまう。中々の人気で予約もどんどん入っているようだ。
東京駅から高崎駅までは、上越新幹線利用なら約50分。首都圏在住者なら気楽にSLの旅が楽しめるロケーション。乗り鉄、撮り鉄と楽しみ方も工夫次第であり、さらに泊まる楽しみも加わった。何回訪れても新たな発見が見つかりそうである。