『CMナウ』がナウかった頃【新保信長】新連載「体験的雑誌クロニクル」11冊目
新保信長「体験的雑誌クロニクル」11冊目
今思えば、電通や博報堂に受からなかったのは幸いだった。受験したこと自体、若気の至りと言うしかない。が、あの時代、私のようにコピーライターに憧れた若者は大勢いたはずだ。前述のとおり当時は広告ブームであり、糸井重里を筆頭にコピーライターがスター扱いされていた。何しろ83年6月には『コピーライターズスペシャル』(誠文堂新光社)という丸ごと一冊コピーライターづくしのムックが発売され、84年3月には『ザ・コピーライターズ』と名前を変えて定期刊行化されたほど。84年7月には、お堅いはずの「別冊國文學・知の最前線」シリーズで『コピーの宇宙』なんてものまで出ている。どれだけコピーライターと広告コピーに注目が集まっていたかわかるだろう。
ただし、『ザ・コピーライターズ』はコピーライターブームにかこつけたサブカル雑誌といった雰囲気で、ちょっと別枠ではあった。広告に関する記事もあるにはあるが、その切り口もひねりが利いてて、全体的にふざけているというか変だった。3号の特集「高級藝術協会の秘密」なんかは、赤瀬川原平、南伸坊、上杉清文、秋山道男、平岡正明、渡辺和博、末井昭といった面々が大集合で、とんでもないことになっている。ディレクターとしてクレジットされているのは、当時の大ベストセラー『金魂巻』を手がけた神足裕司。今見ると、なるほど納得の誌面である。

そういう面白主義もまた、80年代の特質ではあった。が、冗談が過ぎたか、『ザ・コピーライターズ』は85年8月発行の5号で休刊。一方、『CMナウ』は「ナウ」が賞味期限切れになっても広告ブームが下火になっても、しぶとく生き残った。92年には、バブルも崩壊したというのに、季刊から隔月刊へ。それだけ売れていたということだろう。
個人的には90年ぐらいまでは購読を続けていたものの、その後は「CM大賞」の号などをたまに買うだけになった。主な原因はCMへの興味が薄れたことだが、雑誌自体がアイドル情報誌化していったというのも理由のひとつ。しかし、逆にそれが読者層の拡大につながったと思われる。2010年代には特集テーマがAKB48(の出演CM)とかになり、2014年11-12月号よりB5判からA4判に大型化、誌面もオールカラーになった。同号の特集は「石原さとみ」。もはやCMは付け足しだ。
今はどうかと調べてみたら、残念ながら2023年3–4月号をもって休刊していた。いや、紙の雑誌が極めて厳しい状況にあるなか、そんな最近まで続いていたのはむしろ大健闘の部類だろう。最終号の特集は「田村真佑」。乃木坂46の人らしいが、アイドルに疎い私にはわからない。今はテレビもまったくと言っていいほど見ないので、どんなCMが流れているのかすら知らない。「CM」からも「ナウ」からも、すっかり遠ざかってしまった私であるが、電通とか博報堂に受からなくてよかったと、つくづく思う。
文:新保信長