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「地位も肩書きも消えてただの人になる」働き盛りの大人が海を渡る意義

現在観測 第48回

旅行会社が手配する、海外のパッケージツアーが人気だ。数日間で主要な観光地を効率的に周遊できる。しかし、すべてお膳立てされたツアーに身を任せるのではなく、現地では自身の力で行動することこそが、旅の醍醐味ではあるまいか――。70以上の国と地域を訪問し、『一生に一度は行きたい 世界の旅先ベスト25』(光文社新書)の著者でもある多賀秀行さんにご寄稿いただいた。

■似て非なる旅行と旅

 「旅行」と「旅」。似たような言葉だが、イメージは明らかに違う。前者は旅行会社のパッケージツアーに参加するレジャー的なものであり、後者は自らの力で手配し現地を歩く冒険的なもの、と言い分けることができるのではないだろうか。
 いずれも別の土地を訪れることに違いはない。人生において素晴らしい時間であることも事実だ。しかし、誰かにお膳立てされたものと、自身で用意したものでは、その海外を歩くという行為において全く意味が異なる。
 エジプトのピラミッドに2回、訪れたことがある。一度目は自己手配で、二度目はツアーバスに乗ってだ。
 一度目の方が、ピラミッドを見たことに対する感動が大きいのは当然だ。加えて緊張感や孤独感といった類の感情もあった。しかし全く同じ場所にも関わらず、二度目にはそれらの感情はなかった。ツアーバスの売りである、「安心」、「安全」がその感情を取りのぞいたのだ。

■働き盛りの大人にとって、海外への渡航はハードルが高いのか

 明確な線引きはないが10代や20代を若者とするなら、30代以上を大人ということができる。所帯を持った人、重要な仕事を任せられている人、あるいは肩書きが加わっている人もいる。もちろん独身生活を謳歌している人もいれば、社会一般とは一線を画し我が道を進んでいる人もいるだろう。
 いずれにせよ若者時代と比較すると、公私共に責任が増えていく。それに比例して、海外へと渡航するハードルも年々上がってゆくのが常だ。
 転職などのターニングポイントがあれば、その時間を利用して短期留学だけでなく、居酒屋などに貼ってあるポスターでお馴染みの世界一周への旅もできてしまう。しかし働き盛りにとって、実際には経済的な面以上に時間の確保が難しい。
 そんな事情を察するかのように、旅行会社は週末海外旅行や2泊5日でヨーロッパなど、様々な趣向を凝らしたツアーをこぞって企画・販売している。満足度は別としても、それだけの短時間で海外に行くことが出来るのだ。
 日本を出国した人々の年代が分かるデータがある(一般社団法人 日本旅行業界・年齢階層別構成比率・2014年)。40代が20.7%、30代が18.9%と、全体の4割近くを占め、1位、2位となっている(ちなみに50代以上が35.9%、20代以下が24.6%)。この数字が物語るのは、ビジネス目的が含まれることを見込んでも、実は働き盛りの年代こそが海外に多く渡っているということだ。

■素晴らしき海外旅行

 「エア旅行」なる言葉が誕生している。世界遺産や絶景など、海外の素晴らしい景色を紹介する雑誌・書籍を眺めて「行った気」になることをいうそうだ。グーグルアースを使えば、地球上のあらゆる地域をエア旅行することもできるようになった。しかし、それらはあくまでもバーチャルな世界。人々はそこに存在するリアルを求めて、海外の地を目指す。
 渡航目的は多岐に渡る。世界遺産や絶景をその目に焼き付けたい。有名シェフが腕を振るう星付きレストランで極上の料理に舌鼓を打ちたい。野生動物を間近に眺めたい。碧のグラデーションが美しい海でのんびりしたい。おとぎばなしに出てくるような可愛らしい町を歩きたい。大自然に身をゆだね地球を感じたい。シーズンを選べば地元の祭りだったり、一定の時期にしか見られない自然現象も見ることもできる。

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多賀 秀行

たが ひでゆき

1981年東京都出身。高校卒業後、人生初の海外となる世界一周の船旅に参加。以降、国際NGOでのボランティア活動や旅行会社での企画、手配、添乗に携わり延べ70以上の国と地域を訪問。その後出版業界へと転職。『5日間の休みで行けちゃう! 絶景・秘境への旅』『5日間の休みで行けちゃう! 美しい街・絶景の街への旅』(以上、A‐Works)など、累計30万部発行の人気シリーズの編集者となる。著書には『一生に一度は行きたい 世界の旅先ベスト25』(光文社新書)など。現在は、岐阜県高山市に移住し、1日1組限定の宿「ANCHOR SITE」を営みながら、海外旅行をメインとしたフリーランスの編集者として活動している。


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  • 多賀 秀行
  • 2015.06.17