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ポジティブに世を捨てよう!【適菜収】新連載「厭世的生き方のすすめ!」

【新連載】厭世的生き方のすすめ! 第1回

 

スケルダウンしよう

 

 私は今、ダイエットをしている。しかしそれを公言するのはなにか嫌だし、そもそもダイエットという発想が嫌いである。将来のために現在を犠牲にするという発想は病んでいると思う。だから、ダイエットという言葉を使うのは適切ではない気がする。もっと積極的に「小さくなりたい」「スケールダウンしたい」「浅草にいるような小さい爺さんになりたい」という感じだ。

 私は50を超えてから若いときのような生活をしなくてもいいと思うようになった。ヤドカリだって住処を変える。まあ、ヤドカリは成長に伴い大きな貝を選ぶのだろうが、その逆をやればいい。少しずつ、小さなところに移っていく。

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 私はまず新聞や雑誌の連載をやめた。それで時間ができたので、散歩するようになった。すると体重も減った。いい感じの縮小スパイラルである。さすがに身長は減らないが、それでも老人になれば皆、小さくなっていく。江戸時代の庶民の平均身長は男は157センチ、女は145センチくらいだった。人間は短い間に大きくなりすぎた。この先、バランスよく栄養を減らせば、人間は小さくなっていくはずである。皆が小さくなれば、食糧問題も住宅問題も解決する。逆に大きくなりすぎればホテルのベッドから足がはみ出るし、鴨居に頭をぶつける可能性もある。転倒時のリスクも大きい。

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 私の友人が90年代初頭にウィスコンシン大学に留学していたとき、アメリカ人の同級生が「ソニーのウォークマンよりアメリカのウォークマンのほうが大きい」と自慢したそうな。

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 日本には昔からでかいやつは怪しいという価値観がある。「バカの大足」「うどの大木」「大男総身に知恵が回りかね」といった言葉もある。その感覚はまっとうだと思う。道を歩いていても、すごく大きな人がいたら警戒してしまう。一方、「山椒は小粒でもピリリと辛い」と言う言葉や一寸法師のような話もある。外国にも似たような話はあるような気もするが、それはそれで横に置いておく。

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 ダイエットしたところでモテるようになるわけではないが、いろいろなものを減らしていくこと自体に快感や面白さがある。おなかに10キロの無駄な脂肪がついている人は、常時米10キロを担いでいるようなものだ。それが減るだけで身も心も軽くなる。

 私の友人の小太りのドイツ人(40代)が池袋の東武デパートの日本酒コーナーに行くと、酒のつまみを物欲しげに見つめている黒縁の眼鏡をかけたデブがいたそうな。彼は自分のことを棚に上げて「キモっ」とつぶやきそうになったとのこと。

 私が「本気でそう思ったなら、君はやせていくんじゃないの」と言ったら、彼は「今すぐにやせたい」と答えた。

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 岡田斗司夫という人はよく知らないが、先日、ユーチューブに流れてきた動画を見た。岡田はダイエットをしてやせたが、その後、リバウンドしてしまった。それはダイエットに飽きてしまったからだと説明していた。私はなるほどと思った。飽きなければ、そして楽しければダイエットは続く。なにかを犠牲にしたり、我慢したりするダイエットは続かない。ダイエットに成功している人は、それが楽しいからやっているのである。

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 ダイエットに限らず、小さくなる、スケールダウンする、シュリンクすること自体に快楽がある。モノを捨てたり、人間関係を整理したり、世を捨てるのも同じ。厭世主義にはマイナスのイメージがあるが、そこにはプラスの側面もある。pessimismをoptimistically、positivelyに捉えれば、見えてくるものもある。私は肉体的にも精神的にも小さな人間になりたい。

 

文:適菜収

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適菜 収

てきな おさむ

1975年山梨県生まれ。作家。ニーチェの代表作『アンチクリスト』を現代語にした『キリスト教は邪教です!』、『ゲーテの警告 日本を滅ぼす「B層」の正体』、『ニーチェの警鐘 日本を蝕む「B層」の害毒』、『ミシマの警告 保守を偽装するB層の害毒』、『小林秀雄の警告 近代はなぜ暴走したのか?」(以上、講談社+α新書)、呉智英との共著『愚民文明の暴走』(講談社)、中野剛志との共著『思想の免疫力 賢者はいかにして危機を乗り越えたか』、『遅読術』、『安倍でもわかる政治思想入門』、『日本をダメにした新B層の研究』(KKベストセラーズ)、『ニッポンを蝕む全体主義』『安倍晋三の正体』(祥伝社新書)など著書50冊以上。「適菜収のメールマガジン」も好評。https://foomii.com/00171

 

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