体感型ゲームとはコミュニケーションツールである
現在観測 第14回
参加者が謎や迷宮に挑戦し、実際に頭と身体を使って、時には謎を解き、時には体力の限りを使いプレイする体感型ゲーム。そういったイベントが各地で開催され大盛況なのだという。
そこで今回は体感型ゲームの企画演出家、映画監督、役者、脚本家などから構成されるクリエイターチーム『PKシアター』の総合監督である伊藤秀隆氏に、「そもそも体感型ゲームとは何か」についてご寄稿いただいた。
いま、全国の様々な場所で「体感型ゲーム」「リアルゲーム」というイベントが流行っています。遊園地やショッピングモール、または町全体を舞台に参加者は「殺人事件の犯人捜し」や「この会場からの脱出」「宝探し」など様々なミッションを遂行していき、ひとつの謎を解くと、新たな謎が出現します。次に進むためのヒントは自分が持っていた地図や参加者パスに隠されていたりするのです。または、突如現れる謎の番号…もしかして、携帯電話に入力すると電話口でヒントが告げられる。などなど。
このイベント、別に目新しさはありません。よくよく考えてみれば、小さいころやったオリエンテーリングやスタンプラリー、それになぞなぞを組み合わせただけなのです。僕自身も小学生のころ江戸川乱歩の少年探偵団シリーズに影響されて、「20面相からの挑戦」などと家のあちこちにナゾナゾを書いた紙を隠し、近所の友達とよく遊びました。
しかし、そんな「遊び」がなぜ今爆発的に求められているのでしょうか?
そのヒントが、あるテレビ番組に隠されているかもしれません。
僕たちPKシアターが「体感型ゲーム」を始めるきっかけの一つに、僕自身がフジテレビ『逃走中』(フジテレビ系)というタレントがハンターから放送中に逃げ延びると賞金がもらえるという、いわゆる「鬼ごっこ」番組のディレクターとして参加していたというのがあります。
この番組、最初は深夜放送としてスタートし、渋谷の街などを舞台にしていたのですが次第に「江戸の町」や「邪馬台国」などにところを変え、ゲームと連動して物語が進むという内容に進化し、今では子供たちから絶大な人気を博しています。
この興奮を実際に、一般の方に体験して欲しい、でも不特定多数の方が走ったら危険。ということで、始めたのが謎解きをメインにした「体感型ゲーム」です。
「逃走中」が人気を集めているのは、その「鬼ごっこ」というシンプルなコンセプト。そんな子供のころ誰もが興奮したゲームに「大金」を賭けて大の大人が本気で勝負をすることが面白かったからではないでしょうか。そこから見えるのは、大人になっても子供時代の原体験をやってみたいという思いが誰しもの心にあるということ。
もちろん、それらをコンピューターゲームとして体験することも可能です。しかし、「人間 対 人間」が身体を張った体験というのは、ゲーム機やインターネットを介してのゲームとは違うのだと思います。
人の感情が目の前で感じられるという快感は、「実際にやってみる」こと以外になかなか得られない感情なのかもしれません。
これは、僕自身が今まで映画や演劇の演出をしてきたのち、初めてこの体感型ゲームを開催したときにも感じた快感です。目の前で、謎が解けた参加者が一目散に走り出す。友人同士で歓声をあげる。自分たちが仕掛けた謎やミッションに対して、本気で悔しがったり、喜んだりしてくれるのです。
それまで問題用紙とずっとにらめっこしながら脳みそフル回転で考えてたどり着いた先には、「無数の紐が張り巡らせれており、紐に触れないように目標物を奪還しないといけない」といったことだったり、、ふと辺りを見回すと他の参加者の解答用紙の色と自分の解答用紙がの色が違っていたり…つまり、合体させると答えがでる! など発想を飛躍させることによって問題が解決する快感を味わってもらえる工夫は常に考えています。
そして、そういう「あっ!」という感情は他の参加者にも伝染し、作り手にも伝染します。PKシアターの「体感型ゲーム」は置いてある謎だけではなく、役者と参加者のコミュニケーションを大切にしています。その理由は、参加者の熱と役者の熱が呼応して更なる大きな「感情」になると考えるからです。
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