新型コロナウイルス感染症を病院ではどう対応するのか【岩田健太郎教授・感染症から命を守る講義⑥】
命を守る講義⑥「新型コロナウイルスの真実」
感染症から命を守るための原理原則は、変わらない。この原則を体に染み込ませる決定版。
感染症専門医の第一人者・岩田健太郎神戸大学病院感染症教授の最新刊『新型コロナウイルスの真実』をもとに現在の感染者が急増する緊急事態に対し、私たちが「今、できる対策」を連続講義いただいた。「新型コロナウイルス感染症」から自分と家族、人々の命を守るために、今、私たちは何をすべきか。第6回目は、「新型コロナウイルス」感染者の病院での対応について学びます。
■病院ではどう対応するのか
新型コロナウイルスに感染した患者さんに対して病院ではどう対応するかというと、個室に隔離して、患者さんと向き合うときには防護服を着ることになります。
治療薬については、エイズの薬、ステロイド、インフルエンザの薬などいろんな薬が効くんじゃないかと、一応想定はされていますが、2020年3月の段階で、「これが効く」と確定されたものはありません。
「使ったら良くなりました」というエピソードもあるにはあります。ですが、さっきも説明したように、そもそも8割の人が勝手に良くなっちゃうので、「使ったから」良くなった、つまり因果関係として良くなったのか、「使って」良くなった、つまり「使いました」と「良くなった」というエピソードが前後関係として連続しているだけなのか、区別ができていないんです。
これを区別するには、臨床試験、つまり薬を使った患者群と使っていない患者群を比べることが必要になってきます。
「3人に使ったら3人とも良くなりました」というのでは、この薬の効果を証明したことには全然ならない。例えば「薬を使った50人」と「薬を使わなかった50人」を比べて、両者の死亡率はこれだけ違いますよ、というようなデータが得られて、初めて臨床試験で薬の効果を証明できるんです。
これは薬だけでなくワクチンについても同様で、ワクチンが開発されても、開発したワクチンが本当に効くのか、安全なのかを臨床試験で調べないといけません。
新型コロナウイルスへの薬、ワクチンの開発が急がれるが、臨床試験でその効果がデータとして必要となる
まさに今、日本や中国などさまざまな製薬会社が治療薬の臨床試験をしています。2020年の6〜7月ぐらいには結果が出る、もしかしたらもう少し早いかもしれないという話もあります。
ただし、臨床試験の結果「この薬が効きました」という報告になるかどうかは分からない、もしかしたら「効きませんでした」という結果になるかもしれません、臨床試験は博打みたいなもので やってみないと分からないんです。
本書執筆時点で、一つの大きな臨床試験が発表されました。「カレトラ」と呼ばれる、昔からAIDSに使われてきた薬の実験です。ただ、結果は残念ながら「患者の改善には寄与しない」というものでした(Cao B ら。 New England Journal of Medicine. 2020 Mar 1 8)。また、「アビガン」と呼ばれる日本製の薬も試みられていて中国の臨床試験で「効いた」と報告されましたが、研究の質や規模がもうひとつで、これで特効薬だ、と断定するようなものではありませんでした(Cai Q, ら。Engineering. 2020 Mar 1 8)。他にもマラリアの薬や免疫グロブリン、インターフェロンといったさまざまな薬について、臨床試験で効果の検証がされています。
(「新型コロナウイルスの真実⑦」へつづく)
【注】本書『新型コロナウイルスの真実』は現在、発売即重版となりましたが、書店の休業などで「お手元に届かない」との多くの皆さまからお問い合わせが入っております。最新刊でありますが、本書の第1章と第2章を「全文再編」連載という形で、皆様にお届けいたします。著者・岩田健太郎先生のご厚意により、最適な感染症対策への一助となるように専門家として何度もお読みいただけるようにとご配慮いただきました。皆様やご家族、多くの方々の安全を祈念申し上げます。なお全国の書店で配本されていますが、くれぐれも「外出」の際は感染経路と感染の知識を踏まえ、ご行動されることを衷心よりお願い申し上げます。
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岩田健太郎医師の最新著書『新型コロナウイルス』は現在、ネット書店で手にいれづらくなっております。こちらで購入が可能です
【URL】https://bestsellers.official.ec/items/28385984