独占インタビュー・阿部勇樹【悲願のタイトルへの決意】
――「もう失速とは言わせない、別の言葉を言わせたい」
最終回! 悲願のJ1王者へ。阿部勇樹が「赤」に染まって10年目にして抱く思い、独占インタビュー
■家に帰ると、子どもが「負けちゃったね」って……
――あの経験があったのも大きい。
阿部 いや、大きいですね。
まあでも、例えばしんどかったとして、ですよ。それをどうやって和らげていくか、ということはつねに考えながら戦ってきたことも影響していると思います。全部が全部そのまま受け止めてしまっていたら、サッカーをする以前のところで疲れてしまいますから、しんどいときこそどれだけ楽しむことができるか、ですよね。
――しんどいときこそ、楽しむ。
阿部 はい。僕は楽しむことってすごく大事だと思っていて。サッカーをプレーすることはもちろん楽しいんですけど、それ以外のサッカーを離れたところでもその楽しみを感じて生活できるようにすることは意識していました。それが僕にとっては家族だったし、ほかの選手は音楽を聞いたり、ゴルフをしたりということなのかもしれません。
僕に限って言えば、いまは、子どもがもう僕がサッカーをやっているってことが分かる年齢になっていて、例えば試合に負けて帰ったりすると「負けちゃったねえ」なんてあっさりと言ってくるんです。しかもそれを言った次の瞬間には違う話題になっているんですよね。だから勝手に切り替えさせてくれるというか。そうやって周りの影響もあって、うまくリラックスしながら臨めているかなと思いますね。
――安心しました(笑)。では最後に。今シーズンここまでは例年までとは違った結果を残してきた。やっぱり、例年の悔しさはかなり強かったですか。
阿部 いやもうね、悔しいしかない。
終盤は特に「失速」とか「またか」というのは言われていましたから……正直そうやって言われることに対しても、その場で言い返したりして解消できれば楽なんだろうと思うんですけど、僕らができることって結果でみせることしかない。もう失速とは言わせない、違うことを言わせてやろう、というのをモチベーションにしてやっていて……それは毎年そうなんですけど、今年はそれがここまでうまく出せて戦って来られたと思っています。
――だから、最後にチャンピオンシップでタイトルを勝ち取りたい。
阿部 はい。天皇杯は負けてしまいましたけど、チャンピオンシップを取ってクラブワールドカップに出る。それがみんなの向かう場所でもあるので、絶対に勝ち取りたいですね。
――頑張ってください。ありがとうございました。
阿部 ありがとうございました。
まだ、レスターがプレミアリーグ二部にあたるチャンピオンシップリーグにいた頃、阿部はそのチームでプレーをしながらこんなことを言っていた。
「レスターがプレミアリーグに上がったらこの街がどんなふうになるのか見てみたい」
中心地に時計台がある、こぢんまりとした田舎街。そんな「雰囲気が好き」だと。
昨シーズン、そのレスターが昇格どころかプレミアリーグを制覇するという大快挙をやってのけた。そのチームには同じ事務所の後輩であり、日本代表でもともにプレーした岡崎慎司がいた。そして、彼から優勝に湧く街が載った雑誌や写真を見せてもらったという。
「ああ、あの街がこんな風に変わったんだ。歩いたあの道がこんなに盛り上がって……」
阿部はそう言って、嬉しそうに続けた。
「じゃあ、浦和の街はどう変わるんだろうって。いまも十分すごい応援をしてもらっているけど、優勝したらこれ以上どんなすごいことになるのかな、ってそんな気持ちが強くなりましたよね、今年」
どんな想像もつねにサッカーへ、レッズへと戻ってくる。レッズ「最後」の優勝を祝した2006年のパレードはクラブに飾ってある写真でしか知らない。
「何も成し遂げていない」――その雪辱を晴らすこのチャンスを、阿部勇樹は逃すつもりはない。
第一回>>「"負けた試合”を観なくなった」~経験がもたらした変化
第二回>>柏レイソルから学んだ「一致団結」の意味、そして最後尾を走る理由。
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