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第9回:「”U”くんの本名」

 

<第9回>

11月×日【「U」くんの本名】

住んでいる地域で、選挙をやっている。

で、日中、選挙カーがばしばしと大声で「清き一票を!」とがなっているわけだが、逆に「清くない一票」ってあるのだろうか。

揚げパン食べながら書いたろう、ってくらいに砂糖と油がベタベタついてる投票用紙とか?
隅に「視聴者プレゼント」の応募先住所が走り書きしてある投票用紙とか?
もう投票用紙とかじゃなく、噛み終わったガムが投票箱に入っているとか?

あと不思議なのが、投票日前にたくさん聞こえる「厳しい戦いになっておりますが」のセリフである。厳しい戦いだからこそ選挙カーから大声で喧伝してまわっていることは、もうこちらサイドとしては重々承知なわけで、わざわざ言わんでも、と思うのだ。

いや、車で走り回っている際に長々と政治理念をスピーチするなんてできないのだから、自然と「清き一票を!」「厳しい戦いになっておりますが!」というコンパクトな定型文ゼリフを使ってしまうことくらいは、わかる。でも、だったら

「一票入れてくれたら、いいことあるかもよ!」

「一票入れてくれたら、夕飯のおかずが一品増えるかもよ!」

「一票入れてくれたら、蛇口からジュースが出てくる未来が待ってるかもよ!」

的な、短いセンテンスで明るい未来をアピールするようなことを言えないものだろうか。うるさくするのなら、せめてヴァリエーションに富んでいてほしい。

そういえば子どもの頃、「候補者って生き物は、自分のことしか考えてないんだなあ」と、自分の名前を連発するだけの選挙カーを見ながら思ったものだった。

子どもの頃といえば、小学校の同級生で「僕は絶対に政治家になる!」と息巻いていた友達がいたことを思い出した。卒業式の「将来の夢」コーナーでも「大きくなったら僕は政治家になります。選挙の暁には、清き一票を」と体育館の壇上から早すぎる政治活動をすでに展開していたUくんである。

彼は政治家になれただろうか?
彼は正義感に溢れ、かつ面白い男であった。きっと彼が本当に政治家を目指しているのなら、一味違う選挙活動を行っていることだろう。

気になって「U」くんの本名をグーグル検索。
そしたら過去のニュース記事が出てきて、Uくんは賭博詐欺で逮捕されていた。

おい。

お前が清くなくてどうする。

そして、僕の周り、詐欺で捕まる奴、多すぎだろ(第6回の記事参照)。
でもきっとUくんだったら、出所時に看守さんに「これからは更生して政治家を目指します」って言うんだろうなあ、と僕はUくんの顔を思い出して微笑んだ。

これまでもこれからも、Uくんには元気でいてほしいなあ、と思った。
これまでもこれからも、Uくんには関わりたくないなあ、とも思った。

12月7日(土)・8日(日)、作・演出・出演のミラクルパッションズ・コントLIVE「生き物のセクシー」開催。詳しくはhttp://mp-s.net/まで。

*本連載は、毎週水曜日に更新予定です。

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ワクサカソウヘイ

わくさかそうへい

1983年生まれ。コント作家/コラムニスト。著書に『中学生はコーヒー牛乳でテンション上がる』(情報センター出版局)がある。現在、「テレビブロス」や日本海新聞などで連載中。コントカンパニー「ミラクルパッションズ」では全てのライブの脚本を担当しており、コントの地平を切り開く活動を展開中。

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