いばっても決して偉くなる訳ではない…「宅急便」創始者・小倉昌男が語る
【連載】「あの名言の裏側」 第6回 小倉昌男編(4/4)ワンマン経営の弊害
16年間社長を務めた後も、会長、相談役、再び会長と長らく経営の中枢で存在感を放ち続けた小倉氏は、本人の意識とは関係なく、絶対的な存在になっていました。後に本人も「私のワンマン経営の弊害かな」と反省していたのだとか。もっとも、そうした指摘を耳にしても受け入れられず、引き際を見極められないまま、立場に執着し続けるような経営者も実際は少なくありません。その点、小倉氏の引き際は、下の人間の指摘を真摯に受け止めたうえで決断した、潔いものだったといえるのではないでしょうか。
立場に関係なく、相手の話にきちんと耳を傾ける……という小倉氏の姿勢がよくわかる、次のような一文があります。
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多少いばった言い方をしないと、上司として部下に対し権威がないと思っている人もいる。だがそうだろうか。
日本では日常の会話の中で、敬語を使うことは大事なことである。だから目上の人に対しては、必ず敬語を使わなければならない。しかしその逆はない。目上の人は、下の人に対しいばった言い方をしなくても、優しい言い方をしても、十分尊敬されるものである。むしろ優しい言い方をする人のほうが、尊敬されることが多いのではなかろうか。要はその人柄によるからである。
相手に対して優しいというのは、相手の人格を尊重しているからである。その根底には、人間は皆平等だという考え方がある。
(中略)
会社には、いばってものを言う人がけっこう多い。いばっても決して偉くなるわけでもないのに、どうしてあんな言い方をするか、不思議でならない。
(小倉昌男『やればわかる やればできる』より)
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小倉氏はヤマト運輸を離れて程なく、ヤマト福祉財団を設立して理事長に就任。以降は亡くなるまで、障害者支援事業に尽力します。46億円もの私財を投じてつくられた同財団は、障害者雇用の創出、自立支援などに積極的に取り組み、“障害者の働く「おいしい焼きたてパンの店」”として「スワンベーカリー」をフランチャイズ展開するなど、さまざまな事業を結実させています。
小倉氏は自著において、巷間よく口にされるようになった「能力主義」に関連し、ある考えを語っています。
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年功ではなく能力の有無を中心に考えるというのは正しいと思うけれど、だから能力の高い人を大事にし、能力の低い人はいないほうがいいというような言い方を聞くと、ちょっと違うのではないかと思う。
(中略)
能力主義というのは、能力の高い人のみを求め育てることではなく、人それぞれが自分に合った仕事を受け持ち、自分の持っている能力を全部さらけだして、思う存分仕事をやることだと思う。
(小倉昌男『やればわかる やればできる』より)
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小倉氏の福祉への取り組みは、「人間は皆平等」「人それぞれが自分に合った仕事を受け持ち、自分の持っている能力をさらけだして働けばよい」といった小倉氏の価値観にも通じたものです。1993年当時の日本において、企業のCSR(Corporate Social Responsibility/企業の社会的責任)活動は、現在ほど重要視されておらず、積極的に取り組んでいる企業もそれほど多くなかっただけに、ヤマト福祉財団は非常に注目されました。