ホロコーストを招いた史上最悪の偽書(フェイク)とは【中川右介】
メディアリテラシーを高めるための必須教養
■日本にも伝わる
『シオン賢者の議定書』は、一九一〇年代には、シベリアへ出兵していた日本軍の関係者を通じて日本にも伝えられた。
ロシアの反革命軍である白軍兵士のほとんどが、ロシア革命はユダヤ人の陰謀によって起きたと思い込んでいたので、この『議定書』を持っていたのだ。そのため白軍と接した日本兵もこれを知ることになる。
こうして日本でも、一九二四年に包荒子なる人物により『世界革命之裏面』(二酉社)という本が出版され、そのなかで、『議定書』が紹介された。この著者は後に陸軍の安江仙弘(やすえのりひろ)大佐であると分かる。
ところが日本の右翼の一部には、日本人とユダヤ人とが同じ祖先を持つという考え方もあった。これを「日ユ同祖論」という。この本でも後に紹介する、いわゆる「古史古伝」ものにある、モーゼやキリストが日本の天皇と知り合いだったなどという話と、根を同じくする思想だ。
そういう人びとにとっては、『議定書』は、「反ユダヤ」のための書ではなく、ドイツ人に迫害されているユダヤ人を助けることで、日本による世界支配が可能になるという考え方のベースにもなった。つまり、日本とユダヤとは親しくしたほうがいいという理屈になる。