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第13回:「霊体験」(前編)

 

<第13回>

12月×日【霊体験】(前編)

友人のYは、非常に霊感の強い男である。

で、非常に運の悪い男でもある。

Yはここ5年で4回も引っ越しを行っているのだが、その理由が「引っ越すたび、その家に地縛霊がいる」なのである。

とにかく、いわく付き物件を引き当ててしまう。
最初に越したアパートでは冷蔵庫の横に知らない女の幽霊が立っていた。

怖くなり別のアパートに引っ越すと、今度は頭から血を流した男の人がベランダからじっとこちらを見ていた。

で、また引っ越した。そのアパートでは誰も立っていなかったので、しばらくは安心して過ごすことができた。しかし、ある晩帰宅すると、男女6人の幽霊が勝手にコタツで鍋を囲んでいた。最悪のシェアハウス、全然羨ましくないテラスハウスもあったものである。
愕然とその鍋の様子を眺めていると、後ろの玄関から7人目の幽霊がさも当然のように帰宅してきたという。その7人目の幽霊はYの横を通り過ぎる際、チラッと「こいつ、誰?」という目線を送ってきた。

「いや、お前らこそ誰だよ」
その言葉を飲み込んで、Yは翌日、また引っ越しをした。

そのYから今日、電話があった。
最近、また引っ越しをしたらしいYは電話先で開口一番に
「いや、今度の家はワースト1位だよ…」
と悲壮感漂う声をこぼした。

なんでも今回のアパートは、地縛霊とかそういうのを通り越して、「霊の通り道」だったのだという。夜中になるとベッドの脇を、何百人もの幽霊たちがずらずらと通り過ぎていくというのだ。楽しさゼロのエレクトリカルパレードが毎晩開催されているそのアパートだが、「辛いのはパレードではない」とYは語る。

Yはもう、さすがに霊現象には慣れきっているため、幽霊パレードが始まっても気にせずに布団にもぐりこんでしまう。Yが熟睡している間も、夜明けまで延々と霊たちの行進は続く。幽霊たちは全体的にやはり高齢化が目立っており、その多くがおじいちゃんかおばあちゃんであるという。老人は、疲れやすい。ちょっと歩くだけでも、すぐへばる。霊体であってもそれは同じのようで、行進に疲れ果てた老人の幽霊が、Yのベッドで途中休憩することがあるという。
Yのベッドは、幽霊たちにサービスエリア感覚で利用されているのだ。

「夜中に目を覚ますとさ、横で知らないおばあさんがぜえぜえ息をしながら休憩してるんだよね。それがもう、辛くて」
Yは電話の向こうで、深いため息をついた。

Yの話を聞くたびに思う。
こいつは、ウソをついているのではないか?僕のことを騙そうとしているのではないか?映画やテレビではよく心霊現象の話を見聞きするが、現実世界でリアルに霊現象を語るのは、僕の周りではYだけだ。横でおばあちゃんの幽霊が休んでいた?そんなバカな話があるだろうか。

Yはもしかしたら長いスパンで僕を騙し続け、最後には変化球的に「だからこの勾玉のネックレスを買え」とか「このパワーストーンは除霊にも効果あるし、米も美味しく炊ける」などといった霊感商法を勧めてくるつもりなのではないか。

そもそも、本当に、幽霊なんているのだろうか?

というわけで、検索だ。(次回に続く)

 

*本連載は、毎週水曜日に更新予定です。

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ワクサカソウヘイ

わくさかそうへい

1983年生まれ。コント作家/コラムニスト。著書に『中学生はコーヒー牛乳でテンション上がる』(情報センター出版局)がある。現在、「テレビブロス」や日本海新聞などで連載中。コントカンパニー「ミラクルパッションズ」では全てのライブの脚本を担当しており、コントの地平を切り開く活動を展開中。

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