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カジノ法案成立……でいいのか? 「完全に治ることはあり得ない」ギャンブル依存症に潜む本当の恐怖

「否認」の病気であり、「隠す」病気でもある

2016年末に成立した『カジノ法案(特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案)』。カジノ開設のデメリットとしてたびたび議論に上る「ギャンブル依存症」とは、そもそもどのような病気なのでしょうか。『カジノ幻想』を著した鳥畑与一・静岡大学教授が説く、この病気の真の危険性とは。

ギャンブル依存症の4段階の苦しみ

 

 ギャンブル依存症は、本人に病気であるとの自覚がない「否認」の病気であると同時に、「隠す」病気だと言われる。ストレスの発散や一種の興奮を得て楽しいと感じる段階から、より大きな刺激を求めてギャンブルの頻度や回数、時間、そして賭け金額に対する自己抑制が効かなくなり始めると、被害が大きく拡大していくことになる。借金を次々と積み重ねて行き詰まった後にようやく家族や友人・知人に認識され、かつ本人も何とかしようと自分の状況を告白するのであり、ギャンブル依存症の治療に取組んでいる団体や、多重債務問題の解決に取組んでいる団体の網にかかることになる。
 このような「氷山の一角」としてのギャンブル依存症者の多重債務問題に取組んできた関係者の中で、高金利の引下げだけでは解決しえない深刻な問題として貧困格差とともにギャンブル依存症の存在が認識されてきた。そしてギャンブル依存症者の深刻な実態を生々しく体験してきた関係者によって、14年4月にカジノ合法化によるこれ以上のギャンブル依存症問題の深刻化は許せないとして「全国カジノ賭博場設置反対連絡協議会」(新里宏二弁護士代表、以下連絡協議会)が結成されたのであった。
 この連絡協議会が発行した手記集『震える』(14    年4月)は、家族・友人・知人を巻き込みながら依存行動を深刻化させていく様が30名のギャンブル依存症者の体験談で生々しく明らかにされている。
 そこから浮かび上がる現実は、推進派がいうように、ギャンブル依存症になった後でも治療すれば容易に治癒するような生易しいものではないということだ。自らの人生ばかりか家族の生活まで破壊し、なんとか依存症を克服しようという涙ぐましい治療活動を続けながらも、少しのきっかけで「スリップ」というギャンブル再開の危険性を抱えながら生き続けねばならないのである。

 体験談から浮かび上がる第1の特徴は、軽い気持ちでギャンブルをした時に思いがけなく大当たりの経験をして、その成功体験(快感)を忘れることができずにギャンブルを続けてしまうということである。ギャンブル依存症のきっかけは大きな勝ちの経験であり、その快感と次も勝てるという根拠のない成功体験への信奉なのである。
 第2はギャンブルを続けるなかで負けが込み、その負けを取り戻そうという思いで持ち金を使い果たしてしまい、その後借金を通して金銭感覚を麻痺させて深みにはまっていくということである。
 第3にはそうやってギャンブルの勝った快感、負けた悔しさを繰り返し経験するなかで、正常な判断力を失い自分で自分をコントロールできなくなる状態に陥っていくということである。
 第4に「底につく」という経験の後にようやくギャンブル依存症の病的状態を自覚し、自助グループへの参加など真剣な治癒の取組みを始めるが、完全に治ることはなく絶えず「スリップ」という逆戻りのリスクを抱えながら生きざるを得ないという現実である。すなわちギャンブルをしないで済む状態は決して治癒した状態ではなく、ギャンブルに過度に反応する脳の状態は維持されているのである。

『カジノ幻想』より構成
 

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鳥畑 与一

とりはた よいち

1958年生まれ。静岡大学人文社会科学部経済学科教授。大阪市立大学経営学研究科後期博士課程修了。専門は国際金融論。著書に『略奪的金融の暴走:金融版新自由主義のもたらしたもの』(学習の友社、2009年)、「グローバル資本主義下のファンド」(野中郁江他編著『ファンド規制と労働組合』序章、新日本出版社、2013年)、「カジノはほんとうに経済的効果をもたらすのか?」(全国カジノ賭博場設置反対連絡協議会編『徹底批判!! カジノ賭博合法化―国民を食い物にする「カジノビジネス」の正体』第2章、合同出版、2014年)などがある。


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