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ドルトムント、シャルケ取材で見た「レジェンド」の影

ドルトムント・香川、シャルケ04内田。取材でみえたもの

 海外で取材をすると、マッチレポートには記すことのない「サッカーの姿」を見ることがある。
 3月、ドイツ・ブンデスに始まり、プレミアリーグ、そして日本代表の取材でアブダビへ2週間を超える海外取材に向かったサッカーライター・寺野典子氏による「海外取材にうつる風景」。
 第一回はドイツ。ドルトムント・香川真司、シャルケ04・内田篤人、ケルン・大迫勇也、ハンブルガーSV・酒井高徳……。日本を代表するプレイヤーがドイツには集っている(前後編)

ドルトムントのCL大逆転を演出したセレモニー

「ドルトムントが負けたら、怒ったサポーターが暴れるかもしれないからさ。気を付けてね」
 試合前に立ち寄ったイタリアレストラン。ウエーターの兄ちゃんは、試合へ行く私にそう忠告してくれた。そうして続ける。
「僕の育った家の窓から、ベンフィカの試合がいつも見られるんだよ」
「えっ?! イタリア人じゃないの?」
「違う違う。僕はポルトガル生まれだから。今日、ベンフィカが勝ったら、僕のおごりでワインを1本サービスするから!」
 こちらが日本人だと知ると「じゃあ、ジャッキー・チェンだね」とか「東京って日本だっけ?」と、見当違いではあるけれど、“心の近さ”を見せようとする調子の良さは、軽薄さではなく、温かだった。
「来週の金曜日にまた来るから。ワインはそのとき、御馳走してね」
「そっか、金曜か。僕はその日休みなんだよねぇ~。チャオ!」
 最後はとてもあっさりとしたもの。そして、この日、ベンフィカも“あっさり”とトーナメントから退いた。

 3月8日、オランダとの国境近くのドイツ西側に位置するドルトムントでの欧州チャンピオンズリーグベスト16セカンドレグから取材が始まった。対するのはポルトガルのベンフィカ。ファーストレグで0-1と負けているドルトムント。所属する香川真司は今日もベンチスタートだ。
 ジグナル・イドゥナ・パルクは通常のリーグ戦では8万人あまりを飲みこむビッグスタジアム。ゴール裏の南スタンドは、黄色い壁と呼ばれる立ち見席。立見席が認められないチャンピオンズリーグなどのUEFA(欧州サッカー連盟)の試合時には、椅子席に変更され、収容人数も6万5千人となる。
 キックオフ直前、ピッチ上ではあるセレモニーが行われていた。ドルトムントのユニフォームを手にしたスーツ姿の男性たちが紹介されている。誰もが高齢であることは遠くから見ても理解できた。だが、ドイツ語ができない私にはこのセレモニーの意味がわからなかった。
 そして、いよいよ選手がピッチに現れる。南スタンドに描かれるコレオグラフィーは相変わらず美しい。スタンドを埋めたサポーターが黄色と黒のクラブカラーを掲げている。チャンピオンズリーグアンセムが流れたとき、その壁の上からクラブの旗が登場。そして下からは、古い新聞記事を再現した幕がせり上がってきた。ドイツ在住の記者仲間が教えてくれた。

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寺野 典子

てらの のりこ

1965年兵庫県生まれ。ライター・編集者。音楽誌や一般誌などで仕事をしたのち、92年からJリーグ、日本代表を取材。「Number」「サッカーダイジェスト」など多くの雑誌に寄稿する。著作「未来は僕らの手のなか」「未完成 ジュビロ磐田の戦い」「楽しむことは楽じゃない」ほか。日本を代表するサッカー選手たち(中村俊輔、内田篤人、長友佑都ら)のインタビュー集「突破論。」のほか中村俊輔選手や長友佑都選手の書籍の構成なども務める。


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