足助への塩の道に敷かれたレール・名鉄三河線【後編】
ぶらり大人の廃線旅 第16回
三河広瀬駅から峠の廃トンネルへ
両枝橋を渡って対岸の道路をしばらくたどると、間もなく線路が左側に近づいてきて三河広瀬駅に着く。矢作川を俯瞰する駅で、川に面した方が桜並木になっている。現役の頃についに乗る機会はなかったが、きっと春には車内からも花見が楽しめたに違いない。かつては列車交換が可能だったようで、狭いホームの山側にも線路の跡があった。だいぶ昔に撤去されたらしいが、貨物ホームの遺構もあり、レールが敷かれていたあたりには芝が植えられ、ミニゴルフができるよう整備されている。
一歩下がったところには木造駅舎も保存されていた。入口の引き戸は新調され、室内には「でんしゃみち整備計画について」と題する計画図も掲示されている。来訪者にも地元の人にも楽しめる施設として、足助までの未成区間も含めた遊歩道を作る計画になっている。未成区間には「野口まぼろしの駅」「追分岩神駅」「香嵐渓駅」の3か所が表示され、イラストには遊歩道を散策する人たち、廃トンネル内での室内楽コンサートの絵もあった。駅前には広瀬屋という旅館が今も健在である。
駅の先の森の中まで線路をたどったが、そこまで来たところで残念ながら時間切れである。名古屋の講座に駆けつけるためであるが、広瀬からバスで約40分の名鉄豊田線浄水駅へ向かい、市営地下鉄鶴舞線直通の電車で都心へ急ぐ。講座が終了するとトンボ返りで再び浄水駅、そこから今度はタクシーで広瀬へ急いだ。日が暮れる前に終点へ向かうためには少々高いがやむを得ない。
約5時間ぶりの広瀬であるが、駅の少し先から歩き始めた。線路はここで向きを真南に転じて峠を越えて西中金を目指すのだが、枝下から西中金へ直行しなかったのは、おそらく広瀬の集落から熱心な誘致があったためだろう。錆びたレールはきれいに半径250メートルほどのカーブをトンネルに導いている。やがて線路は谷間に入り、突き当たりには広瀬トンネル(241.4メートル)の坑口が見えてきた。上部が赤茶色になっているのは地下水に鉄分が多いせいだろう。当然ながらフェンスで立入禁止となっているので、引き返して里道を下室(しもむろ)町へ迂回する。
やがてガーダー桁が外された橋台と築堤が見えてきた。この道の上を通る跨道橋である。この南側にはさらにもう1つの短い力石(ちからいし)トンネル(40.23メートル)が続くが、築堤は急傾斜で高く、雑草をかき分けてこれを登る気にはなれない。廃線跡を歩くのは諦め、今度は里道と国道を迂回して終点を目指した。力石は珍しい地名で、他に長野県、京都府などにもある。成人儀礼によくある「力較べの石」に由来という説もあるが、ここもそうだろうか。国道153号に出るとさすがに自動車の交通量が多く、彼等がこれだけすっ飛ばしていれば、広瀬を迂回する電車の旗色が悪かったのも頷ける。
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