スティーブ・ジョブズが社員に強いた「限界を超える」要求
【連載】「あの名言の裏側」 第8回 スティーブ・ジョブズ編(2/4)中途半端なジョブズの真似はブラック企業を生み出すが…
言葉に気を付けたり、相手の感情を慮ったりしたせいで、肝心の真意が伝わらないことや、製品やサービスのクオリティが不十分なものになってしまうことのほうが問題。そうなるくらいなら、自分は思ったことを、思ったままに口にする……といったところでしょう。完璧主義者であることに加えて、何事においてもシンプルであること、合理的であることに重きをおいたジョブズからすれば、オブラートにくるんで遠回りするより、歯に衣着せずに発言して最短距離を進むほうがいい、となるのも、まあ道理です。周囲は戦々恐々でしょうが。
また、こんな発言もしています。
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僕のいちばんの貢献は、本当にいいもの以外にはつねに口を出し続けたことだ。
(桑原晃弥『スティーブ・ジョブズ名語録』より)
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自分が口うるさく指摘を重ね、関係する人々に限界を超えるほどの献身を要求したからこそ、本当にいいものを生み出すことができたのだ、という強い自負を感じる言葉です。
ジョブズ流のプロジェクト推進方法は、メンバーに苛酷なまでの負担を強います。しかし、その厳しい道程を乗り越えた先には、素晴らしい成果が待っている。メンバーそれぞれが成長を実感できる。そうした結果が伴うからこそ、どうにか成り立っているようなやり方です。
そうした手法が受け入れられていた背景には、ジョブズの創造性や発想の素晴らしさ、さらにはそれを具体化することで社会にまったく新しい価値を提供できるというジョブズの強い信念に対する共感がありました。要は、ジョブズ自身が強く放つカリスマ性と進取の気質が強烈だったからこそ、周囲の人々もどうにか付いていくことができたのです。換言するなら、ジョブズだからできたこと、という側面が非常に強いといえます。
ジョブズへの敬意や影響を公言し、信奉する人は少なくありません。スタートアップ界隈の事業家たち、そしてそれを目指す人たちのなかにも、ジョブズ信者のような御仁が散見されます。それ自体を否定する気はさらさらありませんが、中途半端にジョブズの真似をするのは、あまり賢明なやり方ではないでしょう。本気でジョブズ的なスタイルで仕事をしていこうとするなら、それは確実に茨の道です。そもそも、本人に圧倒的なまでの求心力と推進力、そして結果が伴わなければ、単に独りよがりな経営者が周囲を翻弄し、ブラック労働を強いるだけの環境となるでしょう。
そういった意味で、スティーブ・ジョブズの言葉は、強烈なカンフル剤となる一方で、身を滅ぼすほどの劇薬にもなるものなのです。
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