第22回:「靴下 必ず片方だけなくなる なぜ?」 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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第22回:「靴下 必ず片方だけなくなる なぜ?」

 

<第22回>

2月×日【靴下 必ず片方だけなくなる なぜ?】 

捕らえられた宇宙人。いまだ謎に包まれた超古代文明。幽霊船目撃情報が後を絶たない死の海域。

この世には、数々のミステリーが存在する。実に奇怪なものばかりである。
そして僕は今日、人類最大のミステリー「なぜか靴下は片方だけなくなる」に遭遇し、身体を震わせた。

僕は何度、このミステリーを体験しなければならないのだろうか。

待ち合わせの時間が迫っている。急いで身支度を済ませて、家を出る準備をする。あとは靴下を履くだけという段になり、棚を開けて戦慄を覚える。

「どの靴下も、片方しかない‥?!」

こうして人は、時に左右バラバラの靴下を履くことになり、また時には靴下を履かないで外出することになる。靴下が不十分だということだけで、なぜか自分が人間としても不十分な気がしてくる。まるで宇宙人に誘拐され、無理やり緑色の液体を飲まされ、自分が自分でなくなったような感覚を携えながら、一日を過ごすことになる。

靴下は、必ず片方なくなる。

幼少期より、この怪現象に頭を悩まされてきた。
独身OLがボーナス時期に必ず劇団四季を観に行くように、地方の温泉が必ず玄関にガラスケースに入った大きなスズメバチの巣を飾っているように、小学生が紅白帽をかぶると必ずゴムの部分をなめて「しょっぱい」とか言うように、靴下は必ず片方、なくなる。

片っぽ靴下は、どこを経て、そしてどこへ行くのか?山を経て、海へ?日暮里を経て、西日暮里へ?スチュワーデス時代を経て、相撲部屋のおかみさんへ?披露宴を経て、二次会へ?そして二次会から三次会(魚民)へ?

その消失ルートは、未だに解明されていない。

24歳の時、お金はなかったが仕事が少しずつ入り始めた。ほとんどが現場に出向く仕事で、毎日靴下を履いては朝早くにでかけていた。

ある時期を境に、どの靴下も片方だけなくなっていた。人に会う手前、左右バラバラの靴下を履くわけにはいかず、仕事の帰りにキオスクなどで買い足していた。それでも靴下は片方だけ、消えていく。僕は、靴下を買い続ける。なおも靴下は消えていく。

そしていつしか、僕は財布の底が尽きた。「靴下破産」。この世にはそういった、若干プリティな破産も存在するのである。

そんな24歳の時を経てもなお、今現在靴下は消え続ける。このままこの問題を野放しにするわけにはいかない。このミステリーに、ついに真実のメスを入れる時がきた。

グーグルで「靴下 必ず片方だけなくなる なぜ?」で検索。

検索ボタンをクリックする瞬間、僕は好奇心と恐怖とがないまぜとなり、淡い胸のざわつきを覚える。もしかしたらこれは、ホワイトハウス監視下による、世界レベルの機密情報に触れようとしているのではないだろうか。検索した瞬間に、僕は抹殺されてしまうのではないか。そう、奇しくも片っぽ靴下と同じく、僕は世界から消えてしまうというわけだ。

検索結果がブラウザ上に現れた。

ツバを飲み、真実を知る覚悟を決める。
そこには、こう記されていた。

「あなたがだらしないからです」

 

真実を知った瞬間、僕はPCの電源も切らず、横にあるベッドにそのままの格好で倒れこんでふて寝を決め込んだ。靴下だけ脱ぎ捨てた。靴下は乱雑に散らかった部屋のブラックホールへと吸い込まれていった。

 

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*本連載は、毎週水曜日に更新予定です。

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ワクサカソウヘイ

わくさかそうへい

1983年生まれ。コント作家/コラムニスト。著書に『中学生はコーヒー牛乳でテンション上がる』(情報センター出版局)がある。現在、「テレビブロス」や日本海新聞などで連載中。コントカンパニー「ミラクルパッションズ」では全てのライブの脚本を担当しており、コントの地平を切り開く活動を展開中。

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