【難病・魚鱗癬】息子を見るとき、皆、悲しい顔をする。でも子と妻のそばにいたかった《ピエロの父》
難病を持つ我が子を愛する苦悩と歓び(25)
難病「道化師様魚鱗癬」を患う我が子と若き母の悲しみと苦しみ。「ピエロ」と呼ばれる息子の過酷な病気の事実を出産したばかりの母は、どのように向き合ったのか。『産まれてすぐピエロと呼ばれた息子』の著作を綴った「ピエロの母」が医師から病名を宣告された日、母は我が子の「運命」を感謝しながら「これからの親子の人生を豊かなものにしよう」と新たなる決意をした。
今回は、難病を背負いながら生まれてきた息子と向き合い「イイ笑顔」とは何かと問いかけながら父としての想いを綴った「ピエロの父」のコラムです。
■「ふたつのイイ笑顔」
息子が産まれる前。職場の上司と飲みに行くことが何度かあった。その際、上司の言っていた言葉が今も印象に残っている。
「人って色んな笑顔があるだろう? でも私が本当に『イイ笑顔』だと思うものが『ふたつ』ある。
ひとつは『赤ちゃんを見るときの顔』。どんなに場の空気が悪くても、赤ちゃんがいると、皆の顔がほころんで、その場が和む。赤ちゃんのパワーは凄い。
もうひとつは『相手と久しぶりに会うときの顔』。駅の前や店の前、どこでもいい。カップルや友達同士、誰でもいい。待ち合わせてる人を見ると分かる。相手と合流する瞬間、お互い、とてもいい顔をするんだよな」
酔っ払い同士の会話なのに、何故こんな話が始まったのか、あまり覚えていないが、確かに上司の言うふたつの笑顔はイイ笑顔だな、と思った。
上司はこの持論を何度か飲みの席で話してくれた。
「私はねえ、本当にイイ笑顔と思うものがふたつあるんだ」
「分かります! 赤ちゃんを見る顔と、久々に面会する人の顔でしょう」
「おっ! すごいな~、分かるのか~」
「だってこないだ聞きましたもん」
「ばかたれっ 早く言えっ」
照れながら私の頭を小突く上司。こんな調子で何度か耳にするので、もうすっかり覚えてしまっていた。
息子が産まれる数週間前。育児休暇中の先輩が職場に用事がてら、赤ちゃんを連れて挨拶に来ていた。赤ちゃんの姿に皆はメロメロ。確かに赤子は無条件にかわいい。上司の言葉通り、周りは笑顔に包まれていた。
私も子どもが好きなので、微笑みながら見つめつつ、自分も数週間後には父親になるんだな、など、色々考えてニヤニヤしていた。
「なんじゃあ~その顔は」
そんな私を、上司はニヤニヤしながら見ていた。先輩たちも「お前ももうすぐやな」と言ってくれて、段々と実感が沸いてくるのが分かった。
その後、息子が産まれた。
すぐに上司へ報告。その際、私は何か口走ったらしいが……、あまり覚えていない。そして上司の言葉を思い出した。
〝赤ちゃんを見るときの顔〟
皆、悲しい顔をしていた。
生命が産まれたのに。
この子は何も悪くないのに。
私は笑顔になれない自分を責めた。
息子が産まれて一か月後。私は東京に戻らなければならなくなった。入院する息子に別れを告げ、電車を乗り継ぎ、ひとりぼっちの家へ。
いま自分が出来ることは、仕事をし、家族を支えることだ、と言い聞かせながら。
でも正直、戻りたくなかった。子の、妻の、そばにいたかった。
東京に戻り数日後、上司が「飲みにいこうか」と言ってくれた。
居酒屋で飲みながら、子の状況について話す。話している内に色々と込み上げてきたが、我慢しつつ話を進めた。
「あなたはこないだ、職場で赤ちゃんを見て、とても嬉しそうな顔してたもんなあ……」
悔しそうに上司は顔を手で覆い、その後、こう話してくれた。
「今回のことで命についての認識が大きく変わったよ。あなたの息子に色々と教えられた」
息子は「産まれてきた」ということだけで、今、大人ひとりの考え方や価値観に大きな影響を与えているのか。
どの家庭でもそうだと思うが、赤ちゃんの持つ力。与える力はとんでもなく大きい。
この子は病気でも、いや病気だからこそ、周囲を大きく動かす力を持っているのかもしれない。父ちゃんよりずっと立派な奴だ。
話を聞いてくれた上司に感謝し、その日はまっすぐ家に帰った。
それからしばらくして、私は上司の口癖だった〝イイ笑顔〟について、実感する時が来た。
それは……。
【参考資料】
本書をもとにCBCテレビ『チャント』にて「ピエロと呼ばれた息子」 追跡X~道化師様魚鱗癬との闘い(6月26日17時25分より)が放送されました。
https://locipo.jp/creative/41a0b114-7ee7-4f24-976c-e84f30d2b379?list=5a767e90-3ff9-479c-a641-e72e77cf42c3
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【参考文献】
『産まれてすぐピエロと呼ばれた息子』(アメーバブログ)
産まれてすぐピエロと呼ばれた息子(書籍)
ピエロの母
本書で届けるのは「道化師様魚鱗癬(どうけしようぎょりんせん)」という、
50~100万人に1人の難病に立ち向かう、
親と子のありえないような本当の話です。
「少しでも多くの方に、この難病を知っていただきたい」
このような気持ちから母親は、
息子の陽(よう)君が生後6カ月の頃から慣れないブログを始め、
彼が2歳になった今、ブログの内容を一冊にまとめました。
陽君を実際に担当した主治医の証言や、
皮膚科の専門医による「魚鱗癬」についての解説も収録されています。
また出版にあたって、推薦文を乙武洋匡氏など、
障害を持つ方の著名人に執筆してもらいました。
障害の子供を持つ多くのご両親を励ます愛情の詰まった1冊です。
涙を誘う文体が感動を誘います。
ぜひ読んでください。