エマニュエル・トッドで読み解く「忖度」。これこそ、もっとも危険なファシズムの兆候である!
〜ナチズム発生の要因と父親の権威〜
■ファシズムの背景にあった直系家族の解体
(フランスの人類学者エマニュエル•)トッドは言っていませんが、思うに、ファシズムの発生の背景には、直系家族の強化ではなく、解体という状況があります。
ドイツの都市部では一九世紀後半から核家族化が進行していました。資本主義化が進み、主産業は農業から工業・商業に移って、人びとは一労働者として都市に住み働くことが多くなりました。都市部では、土地や家と結びついていた直系家族的な三世代同居(親–子–孫)は難しくなります。
そのとき、直系家族の解体は非常に痛みを伴ったはずだとトッドは見ています。土地と家に結びついた人々が根こぎ(デラシネ)にされるわけですから、解体の痛切さは核家族の比ではありません。いま、「根こぎ(デラシネ)」という言葉を使いましたが、これはフランスの直系家族地帯ロレーヌの若者たちが地元を離れて、パリで孤独な群集となっていく現象を指すために、モーリス• バレスが『根こぎにされた人々(V.デラシネ)』
という小説で使った言葉です。
■権力はなくても、権威はある直系家族の「父親」
ところで、農村から都市にやってきて賃金労働者となった直系家族第一世代も根こぎされますが、第二世代は別の解体に見舞われます。それは、構造体として権威を保っていた父親の権威が都市労働者となったために弱体化することです。
直系家族では、父親に実際の権力はなくても、権威はあるとされています。資本主義と都市化の時代に入って、個人の自由の意味を知り始めた直系家族の息子は、ハリボテの権威である父親に反感をいだき始めます。父親の不在が続いたりすると、父親に同化すべき男の子の、アイデンティティの獲得の機会を失ってしまいます。
(『エマニュエル•トッドで紐解く世界史の深層』より構成)
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