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平野啓一郎「テクノロジーの進歩は、人間の自由をリスクとして捉えはじめている」

『マチネの終わりに』著者が見通す、21世紀の自由論(前編)

ドラえもんの原型

 さて、好むと好まざるとにかかわらず、このプロセスのただ中に身を置いている私たちは、生産者として、また消費者として、あるいはまた、口コミの評判に参加する広告者として、どこまで自由に振る舞っている、と言えるだろうか?

 その過程では、消費者は極力、「消費しない」というリスクを発現しないように日常生活を包囲され、物欲の火を絶やさぬように薪まきをくべられ続けている。その一方で、生産者はコスト管理の視点から、人件費を抑制しようと、AIやロボットの活用を進めている。両者を接続するために、「評判」をどのようにして「広告」として活用するか?

 重要なのは、機能的に分化したこの社会の全体が、途切れなく連結し、滑らかに機能し続けることである。人々はそれに漠然と疲労感を覚え、自由であるというより、自由であるかのように振る舞わされていながら、概ね心地よく受け容れている。

 eコマースによるマーケティングでモノを買わされるのが嫌ならば、ネットでは一切買い物をせずに、街に出て買い物をすればいいのだが、少なからぬ人々は、それをおっくうだと感じている。「面倒臭い」というのは、決して馬鹿にできない、今日の新しいビジネス・アイデアのカギとなる感覚である。人々は、自分の足で訪れる書店やスーパーの魅力を百も承知でいながら、ボタン一つで商品が自宅に届く生活への依存を深めている。

 自分の生活を変えることは、一見、意志さえあれば可能なようだが、実際にはどうしてもそれができない。

 つまり、自由ではないのであり、その現実を見ずに、実店舗に人を呼ぼうとすることはできないのである。

 その究極の姿は、おそらく口頭で漠然と必要を伝えれば、最適の商品が検索され、ほどなく自宅に届けられるという、そう、丁度、ドラえもんが側にいて何でも「四次元ポケット」から出してくれるような生活だろう。アマゾンの「エコー」やアップルの「ホームポッド」は、ドラえもんの原型なのかもしれない。

(『自由のこれから』より構成)

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  • 平野啓一郎
  • 2017.06.15