アマゾンはなぜ今さらリアル書店をつくるのか?
アメリカの読書風景①
すでに7店舗が開店
この20年、「ブリック&モルタル」店と呼ばれるリアル書店から売り上げを奪うことにひたすら最新テクノロジーと巨額の資本を投じてきたかのようなアマゾンだが、昨年からシアトル、ボストン、サンディエゴ、ニューヨークといった主要都市に次々と「アマゾン書店」をオープンしている。ホームページを見ると既に7店舗が開店、そして6店舗が準備中。
最近オープンしたのが、ニューヨークのマンハッタンにあるワーナーセンター内のアマゾン書店だ。ここは中層階にオフィス、高層階に億ションとも兆ションともいえそうな高級住宅のある複合施設で、かつてはボーダーズの店があったビルだが、その店もなくなって久しい。セントラルパークと隣接し、マンダリンオリエンタルやトランプ・インターナショナルなどの高級ホテルが点在する目抜き通りだが、この周辺にはとりあえず観光客しかいないと言っていい。
アマゾン書店の主だった特徴は、1)すべて面陳で、2)在庫数千冊と少なめ、3)本そのものに値段がついていないことだ。店内のディスプレイ機に本をかざすか、専用アプリをダウンロードしてスマホで値段がわかる仕組みになっている。他にも「キンドル」や「エコー」など、アマゾン独自のデバイスも陳列されている。アマゾンのプライム会員は、買ったものを持ち歩きたくなければ、そのまま指定の住所に配達することもできる。つまり、お店に一歩踏み入れたとたん、アマゾンの上得意客になることをお勧めされる「全てがプライム推し」の空間になっているのだ。いわゆる“本屋”ではない。
品揃えについては、アマゾンの書籍ページと同じ作りになっていると言っていいだろう。面陳で表紙がディスプレイされていても、「私を読んで」と本が語りかけてくるわけではない。その代わりにアルゴリズムによって、売れ筋のベストセラーだけが並べられ、ついで買いのための推薦書が選ばれ、アマゾンで買えばこんなにお得ですよ、さぁポチりましょうと呼びかけて来るようだ。そのことはインターネットで検索すれば、全米の「本好き人間」がすべからく否定的な感想を述べているのがわかる。つまりはこういうことだ。アマゾン書店が狙っている客は、普段は「本を読まない人たち」なのだ。