【難病・魚鱗癬】感染が命の最大のリスク、だから「医師よりも、お母さんが一番の先生なんです」———若き母、息子の難病の先輩から「気づき」を得る
難病を持つ我が子を愛する苦悩と歓び(46)
◼︎我が子自身が病気を理解し、みんなに説明できるように
お母さんはことあるごとにお手本を示しました。
小学校へ進学するとき、担任の教諭にかけあって、クラスメートたちに遼さんの病気のことを説明させてほしい、と機会をつくってもらいました。
「みんな誰でも髪の毛、落ちるよね。遼の皮膚も同じなの。体の一部だからちっとも汚くないんだよ。みんなと同じだよ」
すると子どもたちは「へぇー、そうか!」と得心したようにうなずいたそうです。
子どもたちは好奇心旺盛だから、ジロジロ見られたり、ボロボロ落ちる皮膚について質問攻めにあったりするのはあたり前。それに反発して拒絶するのではなく、ちゃんと説明すれば、意外に受け入れてくれる……。
子どもたちのそういった反応はお母さんにとっても大きな出来事で、遼さんを育てていくうえでも、患者の会を運営していくうえでも、大きなヒントになりました。肩から余計な力が抜けて、すごく楽になったそうです。
患者および家族の交流会が毎年開かれますが、患者本人や両親から質問があるたびに梅本さんは言います。
就学期、普通学校を希望する場合など、学校へ入学するにあたって、前年の夏あたりに、病状などを説明する機会が与えられます。ここでうまく説明できるかどうかは、受け入れの可否(かひ)にもつながりかねません。
「高校に行きたいなら、面接もあるから練習した方がいいよ」と、患者本人にも自覚をうながすために、声をかけるそうです。当然、遼さんも今までずっと言われ続けたに違いありません。
このような日頃の“訓練”が功を奏したのでしょうか。
中3のとき、ちょっとした事件がありました。遼さんがアスペルガーの少年と仲良くなったのです。
病的なほどの潔癖症の子で、給食は食べられず、昼には帰るか、その日は何も口にせず放課後を迎えるか、といった具合です。
◼︎「親友」との出会いで人生は豊かに開かれる
そんな子がある日、遼さんを自分の部屋に招きました。遼さんの皮膚はそこでも当然、ボロボロと落ちます。遼さんが帰ったあと、彼はほうきで掃除をしたそうです。
そのうち少年は遼さんの家へ泊まりにくるようになり、千鶴さんの手料理を食べるようになりました。彼のお母さんが驚いて、「あの子が他所のうちへ行って、そこの食器で料理を食べるなんて、信じられない」と、後日、興奮して話したそうです。
魚鱗癬の子とアスペルガーの子、二人が自分の病気のことや、相手のハンデについてどういう会話を交わしたのかは、今となっては不明ですが、相互に理解をしていたのは間違いありません。
そうでなければ、このような交流は生まれ得なかったはずです。
遼さんは今でも、彼と親友の関係を続けています。
現在、遼さんは冒頭で述べたように、教育委員会の嘱託として働いていますが、ポロポロと落ちる皮膚をはくために、机の下には自分用のホウキと、独特な体臭を消すための芳香剤を、置いています。
就職当初、保湿剤の薬を塗るためにしょっちゅうトイレへ行くことから、上司に「トイレが近いね」と言われたりしましたが、「実は……」とわけを話すと、「ならデスクで塗ればいい」と理解をしてくれるようになりました。
今では2か月に1回、久留米へ治療を受けに行くときも、2週間に1回、手のリハビリへ行くときも、「今日は行く日じゃないのか」と、声をかけてくれるようになりました。
遼さんはたまたま良い職場と理解ある人たちに巡り会えたものの、多くの患者は社会的には不遇な情況(じょうきょう)にあります。もし皮膚さえ落ちない薬ができたら、いっぱい働くところがあるはずです。
「病気のことをまだまだ世間に知ってもらう必要がある」
遼さんはその活動に力を入れたい、と言います。
(『産まれてすぐピエロと呼ばれた息子』より再構成)
【参考資料】
本書をもとにCBCテレビ『チャント』にて「ピエロと呼ばれた息子」 追跡X~道化師様魚鱗癬との闘い(6月26日17時25分より)が放送されました。
https://locipo.jp/creative/41a0b114-7ee7-4f24-976c-e84f30d2b379?list=5a767e90-3ff9-479c-a641-e72e77cf42c3
KEYWORDS:
『魚鱗癬の会 ひまわり』
代表:梅本 千鶴
連絡先:〒804-0082 福岡県北九州市戸畑区新池3-2-13
E-mail gyorinsen1998@yahoo.co.jp
ホームページアドレス http://gyorinsen.blog.fc2.com
魚鱗癬でお困りの子どもさんやそのご家族のための集まりです。
【参考文献】
『産まれてすぐピエロと呼ばれた息子』(アメーバブログ)
産まれてすぐピエロと呼ばれた息子(書籍)
ピエロの母
本書で届けるのは「道化師様魚鱗癬(どうけしようぎょりんせん)」という、
50~100万人に1人の難病に立ち向かう、
親と子のありえないような本当の話です。
「少しでも多くの方に、この難病を知っていただきたい」
このような気持ちから母親は、
息子の陽(よう)君が生後6カ月の頃から慣れないブログを始め、
彼が2歳になった今、ブログの内容を一冊にまとめました。
陽君を実際に担当した主治医の証言や、
皮膚科の専門医による「魚鱗癬」についての解説も収録されています。
また出版にあたって、推薦文を乙武洋匡氏など、
障害を持つ方の著名人に執筆してもらいました。
障害の子供を持つ多くのご両親を励ます愛情の詰まった1冊です。
涙を誘う文体が感動を誘います。
ぜひ読んでください。