【帯広刑務所編】北国の遅い春、緑の爆発と短い夏、そして秋———塀の中の運動会《懲役合計21年2カ月》
シャバとシャブと地獄の釜Vol.01
元ヤクザでクリスチャン、今建設現場の「墨出し職人」さかはらじんが描く懲役合計21年2カ月の《生き直し》人生録。カタギに戻り10年あまり、罪の代償としての罰を受けてもなお、世間の差別・辛酸ももちろん舐め、信仰で回心した思いを最新刊著作『塀の中はワンダーランド』で著しました。実刑2年2カ月!
帯広刑務所に「遅い」春が来た! 北の大地の風景に身を委ねる懲役たちの四季の歌。そんな叙情に生命の息吹を感じるじんさんだった。
■北国の遅い春に咲くたんぽぽ
季節も初夏に入ると、刑務所の日の当たらないところで凍結していた頑固な根雪もすっかりけて、 その汚く黒ずんだ姿を地上から消してしまうと、グラウンドでの運動が再開される。
柔らかな、北の春の陽が射し込むある日の午後、ボクたち印刷工場の懲役は、半年振りにグラウン ドの土を踏むことができた。足の底に触れる大地の柔らかな感触を味わいながら、やっと訪れた北国の遅い春に思いっきり息を吸い込んで、大きく身体を伸ばす。
グラウンドには辺り一面、タンポポの花が黄色い絨毯を織り敷き始め、みずみずしい白樺の緑が、ランニ ングをするボクの心を惹(ひ)きつけるかのように輝いている。
ボクは門野や佐々山たちと他の懲役たちが野球に興じている外野の外側を大きく廻って、芝や土の 感触を踏みしめながら走る。
塀の外では、冬の間、黄葉して汚い姿となっていた唐松の針状の葉が若々しい鮮やかな緑色になっ て、真っ青な空と鮮やかなコントラストを描いていた。
北の大地では、遅い春になると一斉に植物が芽吹き始める。それは緑の爆発といったような感じで 、力強い、漲(みなぎ)るような生命力を感じさせてくれるのだ。
この頃、ボクは三級から二級へ累進を果たし、かねてから申し込んであった独居へ転房していた。
塀の中の停滞しているかのような時間の流れ。その流れの中に身をおくことはボクにとって、欠かす ことのできない天の母が与えてくれた至福の時間だった。四角い塀の中……、それは、ボクにとって母の子宮であり、養分を与えてくれる母の胎内であった 。
聡明だったと聞く母をボクはこうして感じていた。それがボクのめだった。
独居の四角い窓に映る景色の中に、蕾(つぼみ)を膨らませた桜の木がある。まるで、額に納まった一枚の絵の ような感じだ。
そんな桜の木を見てボクは、「まだ咲かぬ桜に心奪われて……」と詠(よ)み、桜のが弾けるのを楽しみに しながら日々を過ごしていた。
そんな北の春も、桜が開花すると、林芙美子が「花の命は短くて苦しきことのみ多かりき」と詠(うた)った ように、あっという間に美しく、儚い命は散っていき、季節は夏へとうつろってゆく。
グラウンドでは運動会の練習が始まり、9月に入ると、その運動会が開催された。
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じんさん、大ヒット曲『異邦人』のシンガーソングライター久米小百合さんの(久保田早紀さん)の番組「本の旅」に出演いたしました。
2020年5月27日『塀の中のワンダーランド』
全国書店にて発売!
新規連載がはじまりました!《元》ヤクザでキリスト教徒《現》建設現場の「墨出し職人」さかはらじんの《生き直し》人生録。「セーラー服と機関銃」ではありません!「塀の中の懲りない面々」ではありません!!「塀の中」滞在時間としては人生の約3分の1。ハンパなく、スケールが大きいかもしれません。
絶望もがむしゃらに突き抜けた時、見えた希望の光!
「ヤクザとキリスト〜塀の中はワンダーランド〜」です。