【塀の中の拾う神】「サカハラ、諦めずに仮釈放もらえ」と毒まんじゅうの「深情け」《懲役合計21年2カ月〜帯広刑務所編〜》
シャバとシャブと地獄の釜Vol.06
元ヤクザでクリスチャン、今建設現場の「墨出し職人」さかはらじんが描く懲役合計21年2カ月の《生き直し》人生録。カタギに戻り10年あまり、罪の代償としての罰を受けてもなお、世間の差別・辛酸ももちろん舐め、信仰で回心した思いを最新刊著作『塀の中はワンダーランド』で著しました。実刑2年2カ月!
今回は、人はみかけに寄らぬもの。そんな塀の中の人情話。
「毒まんじゅう」と付けられたあだ名から「毒」をとれば美味しさだけしかない。懲役たちから恐れられた看守部長は、じつは情深い人。仮釈放をめぐるじんさんの戸惑いの背中を最後まで押してくれて・・・。社会で生きるってことの豊かさは、捨てる神あれば、拾う神あり。拾ってくれる身近な人を見いだせるかにかかっているのかもしれませんね。
■毒まんじゅうの「深情け」
ここで、ボクは人間的にも魅力のある稚内のKという某組織のいい兄ィと出会った。浜やけしてい る兄ィの顔は黒く、小さな体からは覇気をみなぎらせ、周りからは〝頭(かしら)〟と呼ばれてわれていた。この 兄ィとボクは部屋が一緒だったこともあり気が合い、下手な将棋を二人で指しては、互いをくそみそ にこき下ろすといった舌合戦までも繰り広げて、楽しんでいた。
もう一人札幌から来ていた兄ィがいたが、この兄ィ、遊び人のくせにホモっ気があり、それが原因 して、ボクとゴタゴタを起こしていた。その騒動も収まり、クリーニング工場へ来て数カ月が過ぎ、 三度目の夏を迎えた。
このクリーニング工場へ、久し振りに「毒まんじゅう」の仇名を持つ井口部長 が、交代担当でやって来た。相変わらず小さな身体にパワーをみなぎらせ、圧倒的な存在感でいつも のクリーニング工場の空気を一変していた。
昼飯になり、休憩時間になった。ボクは便所に行き、その帰りに仲間の懲役と一階の階段のところ で立ち止まって、バカ話に大口を開けて笑っていた。すると、二階の踊り場にいた井口部長が、「オ イ、サカハラ」とボクを呼んだ。
「サカハラ、まだ保護会、決まってないのか?」
ボクが食堂へ上がっていくと、心配顔で尋ねた。
「もう諦めています」仕方なく、そう、返す。
「お前、一生懸命に我慢して頑張っていたべ。オレはお前のその姿勢を見ていたから、よくわかるんだ。だから、諦めずに仮釈をもらえ。分類ではいろいろと指導してくれないのか?」
「まったくないです」
「本当か。よし、まだ仮釈もらえるから、道内の保護施設へ申し込んでみろ。もし、なんなら区長に相談してみろ。あの区長なら親身になってくれる。今からだったら、まだ間に合うぞ。だからもう 一度申し込んでみろ」
食ったら死ぬといわれていた「毒まんじゅう」。
懲役はもちろん、同僚の看守たちからさえも恐れられている看守部長の思わぬ「情け」に触れて、ボクは、印刷工場にいた頃、池袋で学生ヤクザをや っていたロイド眼鏡の門野さんの「皆、厄なオヤジだと思って嫌っているけど、あの井口部長、本当 は人情味のあるいいオヤジだよ」という言葉を思い出した。
1カ月後、ボクは区長の尽力もあって52日間の仮釈をもらってシャバへ出た。
向かった先は釧路の保護施設だった。行った早々、ボクはすぐに「東京へ帰りたい」と告げた。そ の無理がどうにか通って、1週間後には戻ってくるという保護施設の主幹との約束で、翌朝ボクは釧路空港にいた。
待合室で待っているとき、空港の売店に並んだ新聞に目を奪われた。
平成9(1997)年8月28日、ある組織の頭が射殺されたという事件がトップニュースとなって、一面を飾っていたからだ。
(『ヤクザとキリスト〜塀の中はワンダーランド〜つづく)
【参考資料】
じんさん、大ヒット曲『異邦人』のシンガーソングライター久米小百合さんの(久保田早紀さん)の番組「本の旅」に出演いたしました。
https://www.youtube.com/watch?v=TSFueav0fgk&list=PLYamdtAmvO0aI-IuOqr107YxdCC1pfzKx&index=3
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2020年5月27日『塀の中のワンダーランド』
全国書店にて発売!
新規連載がはじまりました!《元》ヤクザでキリスト教徒《現》建設現場の「墨出し職人」さかはらじんの《生き直し》人生録。「セーラー服と機関銃」ではありません!「塀の中の懲りない面々」ではありません!!「塀の中」滞在時間としては人生の約3分の1。ハンパなく、スケールが大きいかもしれません。
絶望もがむしゃらに突き抜けた時、見えた希望の光!
「ヤクザとキリスト〜塀の中はワンダーランド〜」です。