【ヤクザの倫理】塀の中でも自分の恥は親分の恥——ヤクザ者のプライドとは何か《懲役合計21年2カ月》
シャバとシャブと地獄の釜Vol.08
元ヤクザでクリスチャン、今建設現場の「墨出し職人」さかはらじんが描く懲役合計21年2カ月の《生き直し》人生録。カタギに戻り10年あまり、罪の代償としての罰を受けてもなお、世間の差別・辛酸ももちろん舐め、信仰で回心した思いを最新刊著作『塀の中はワンダーランド』で著しました。実刑2年2カ月!
今回は、シャバの倫理とは異なるヤクザ者の流儀——プライドについてお届けします。
■汚い、寒い、キツイ——殺伐とした「サムライ工場」
この鉄筋工場でのボクの仕事は、工場の外にあるビニールハウスの中で溶接されてでき上がって表 に出てきた農耕機の骨組みについている溶接のカスを、ハンマーとハツリ棒で取り除く作業だった。
だいたいからして、「サムライ工場」といわれるような工場は、他の一般の工場よりも条件的には 過酷である。汚い、寒い、キツイ、それに加えて、オヤジ(担当看守部長)が悪かったら、もうどう しようもないほどに最悪だ。
このような工場というのは、懲役の不満が蓄積しているからいつも殺伐としていて、空気が乾き切 ているものだ。そんな不満が不気味な軋(きし)みとなって音を立てている様子は、突如として襲ってくる地震の前兆のようなものだった。
この頃のボクは工場にもずいぶん馴れてきて、中堅クラスになっていた。
農耕機の生産を刑務所側に発注している会社の指導員で、ボクの仕事振りを気に入ってくれていた 人がある日、ボクに言った。
「サカハラさん、内緒の話だけど、今度三班の班長になってもらえるように区長に話をしたんだ。 この班をまとめられるのはサカハラさんしかいないからね」
それから数日後のある日、休憩時間の便所待ちで工場の中央路に仲間の懲役たちと並んでいると、 巡回で回ってきた区長の「サメ」が音もなく回遊してきて、後ろからボクの尻をパンと叩いた。区長は、驚いているボクに意味あり気な笑顔をつくると、片目をって去って行った。
鈍いボクの頭の中はしばらくの間、クエスチョンマークが羽をつけて飛んでいた。あの意味あり気な 笑顔と片目をったのは、いったい何だったのかと……。
そして、指導員の話とやっと結びついたのは 部屋へ戻ってからだった。
ボクたち三班では、ある組織の現役ヤクザが班長をやっていた。しかし、この班長はもうじき満期になっていなくなってしまうことから、担当部長は次期班長を決めなければならなかったのだ。
ボクたちの班には、拳銃三丁を隠し持っていた人の罪を身代わりに背負って、長い刑を務めていた 懲役の三井がいた。この懲役と三班の班長は同じ関東の県で、しかも同門組織の人間である。そんなことから、三班の班長は同門組織の三井を自分の後釜にしてくれるよう、オヤジに強く売り込んでいた。
「オヤジ、自分のあとは三井さんに班長やらせてください。どの班も現役がやってまとまっています。お願いします」
担当部長は、可愛がっていた班長の意見を最終的には聞き入れたのだ。
現場担当部長の意見は絶大である。担当部長のズケの悪さもあって担当部長はほぼ決まりかけてい たボクの班長内定を会議で退けてしまい、ボクの内定は取り消されてしまった。
しばらくすると、班長と同門組織の三井が班長見習いに就いた。そして満期で班長が上がって行く と、自動的に三井が三班の班長になった。
あるとき、指導員が申し訳なさそうな顔をしてボクのところへ来たので、ボクは、「気にしないで よ」と言った。班長になればなったで大変なのはわかっていたから、別にならなくてもよかったのだ 。
ただ、ボクを推薦してくれた指導員の気持ちには感謝した。
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2020年5月27日『塀の中のワンダーランド』
全国書店にて発売!
新規連載がはじまりました!《元》ヤクザでキリスト教徒《現》建設現場の「墨出し職人」さかはらじんの《生き直し》人生録。「セーラー服と機関銃」ではありません!「塀の中の懲りない面々」ではありません!!「塀の中」滞在時間としては人生の約3分の1。ハンパなく、スケールが大きいかもしれません。
絶望もがむしゃらに突き抜けた時、見えた希望の光!
「ヤクザとキリスト〜塀の中はワンダーランド〜」です。