名古屋に魅力がないのではなく、アピールする気がないだけ
日本の異界 名古屋⑨
◆名古屋人は名古屋から出ない
そして名古屋人の周囲には、よくわかりあった友人、仲間がいて、心強い。どこにいようがなんとなく知ったところであり、身構える必要がなく居心地がよい。
というようなわけで、名古屋人は名古屋に住んでいることに大満足であり、よそに出ようとか、よそに住みたいとはまったく思っていないのである。言ってみれば、とても強い地元志向があるのだ。
たとえば高校生が大学へ進学する時だって、東京だとか京都だとかの大学へ進むことがないわけではないが、圧倒的に多いのは名古屋にある大学へ進むことである。名古屋大学(これを名古屋人はメー大と略す)を頂点とする大学群があって、そこへ進むのがノーマルな名古屋人なのである。
そして社会人になる時も、ほとんどが名古屋にある企業に勤める。名古屋から出て働こう、という発想はあまりない。
名古屋の人と結婚して、名古屋に住み、名古屋に骨を埋めるのだ。それが多くの名古屋人である。
だから私のような人間は見逃しにできない異端者なのだ。私は、大学までは名古屋圏であったが、そこを卒業してから東京に出て働いた。そして、もう46年も東京に住んでいるのである。名古屋人から見ればとてもおかしな奴、ということになるであろう。
私にしてみれば、小説家になりたいという夢があったので、それにはチャンスの多い東京へ出ねば、ということだったのだが。
ひとつ面白いことがある。私が名古屋で講演などをする時、妻を伴って行くことがあるのだ。すると主催者などの名古屋の人が、必ずきくのである。
「奥さんは、どちらの人ですか」
と。それに対して妻が、
「東京生まれの東京育ちです」
と答えると、相手はなんとも困ったような顔をするのだ。それでは話のしようもないなあという顔になり、私をチラリと見て、そこまで魂を売ってしまったのか、というような表情をする。
しかしそこで妻が、
「でも、祖父も祖母も三河の出身でしたし、私の母は名古屋出身です」
と言うと、急に、それならばまあ許すか、という顔になるのだ。
「小学生の頃は、その頃母方の祖父母が住んでいたのが大高町だったので、帰省する母について、私も夏休みは大高町ですごしたんです」
と妻がいうと、それならば人として認めるという空気になるのだ。
名古屋の人にとって、それほどまでに名古屋は特別なところなのだ。
そして名古屋は閉ざされている。関東でもなく、関西でもなく、第三の地域として完結しているのだ。関東とも関西とも関わりを持っていない。
名古屋が関東か関西かについて、私は面白い体験をしている。ある時、東京の人と話していたら、その人がこう言うのだ。
「名古屋は関西ですよね」
そして、またある時、大阪の人にはこう言われたのだ。
「名古屋は関東ですわな」
つまり両方から、名古屋はこっちではないと言われているわけだ。まるで、名古屋を仲間に入れることはできませんよ、と言われているようなものだ。
だが、違っているのだ。名古屋はそのどちらでもなく、完結した第三の地域であり、名古屋圏とでも呼ぶしかないのである。
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