新型コロナがあぶり出した「狂った学者と言論人」【中野剛志×佐藤健志×適菜収:第1回】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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新型コロナがあぶり出した「狂った学者と言論人」【中野剛志×佐藤健志×適菜収:第1回】

「専門家会議」の功績を貶めた学者・言論人

■死者の数だけで事の軽重を量っていいのか

中野:さらにひどいのは、某氏は、自説の集団免疫戦略にはリスクがあることもちゃんと承知していたということです。それは、感染者が一時的に増えて、死者が増えるというリスクです。つまり、医療崩壊のリスクですね。しかし、某氏は、病院に患者が殺到したら、高齢者の救命を諦める「命の選択」をすればいいと言っていました。「年寄りは、死ぬもんだ。自然死と同じようなものだから、気にする必要はない」というのです。「だから、医療崩壊なんか気にしなくていい」という趣旨のことまで言っていた。ところがですよ、プライベートの場ではそういうことを言っておきながら、SNSなど表の場では「医療崩壊は防がねばなりません」とか「高齢者は徹底的に守らなくてはなりません」などと発言しているのです。

適菜:ひどい話ですね。

中野:高齢者や基礎疾患をもつ人がより重症化しやすいのは、政府や専門家会議も、もちろん知っていて、特に気を付けるよう呼びかけていました。(https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000610566.pdf)。
とはいえ、高齢者等だけを徹底的に守ることは、実際問題として難しい。感染者が増えるほど、高齢者等への感染機会は拡大し、高齢者等を守ることはそれだけ難しくなるでしょう。しかも日本には、65歳以上の高齢者は人口の3割もいる。地方によっては5割になるような村もあるでしょう。だから高齢者等だけを徹底隔離するといったって、限界がある。某氏が模範としていたのはスウェーデンですが、スウェーデンも高齢者を重点的に保護しようとして失敗しました。以上のことを私は某氏に指摘しましたが、彼は一切耳を貸そうとはしませんでした。なぜなら本心では、年寄りは死んで当然と思っているからです。実際、私が「あなたが模範とするスウェーデンでは、死者数が非常に多いが」と指摘したら、彼の返事は「それは、高齢者です」。しかし、世間では絶対にその本心を言わない。二枚舌です。ここが連中の危険なところです。

佐藤:「高齢者や基礎疾患のある人には犠牲になってもらいましょう! もともと体力がないんだから! そのほうが社会全体の健康レベルも上がります!」と公言するのならまだ分かる。ただしその場合、経済被害についても「中小企業にはつぶれてもらいましょう! もともと経営体力がないんだから! そのほうが市場も活性化します!」という話になります。
 どちらか一方だけを肯定し、他方を否定するのは論理的に不可能。すると感染対策も経済対策も、形ばかりで構わないという結論にいたります。コストが安くすむので、緊縮財政論者のみなさんは喜ぶと思いますが、結果は目も当てられないことになるでしょう。

中野:私も、高齢者の犠牲を許容する集団免疫戦略は、疫学上の新自由主義だと論じたことがあります(https://diamond.jp/articles/-/239801)。

適菜:自民党の安藤裕議員が某討論番組で暴露してましたけど、安藤さんが「損失補償、粗利補償を絶対にやらないと、みんな企業潰れますよ」という話をある幹部にしたら、「これ(新型コロナウイルス)でもたない会社は潰すから」と言われたとのこと。生きるか死ぬかの瀬戸際にいる困っている人たちに手を差し伸べるどころか、背中を押して地獄に突き落とそうとする。

佐藤:もちろん正当化はできます。「あの会社を経営していたおじいちゃんは、いつ廃業してもおかしくないと普段から言っていた、だから会社がつぶれても寿命なんだ」と主張すればよろしい。

中野:2~3月ぐらいまで「新型コロナはインフルエンザと変わらないんだ」と言っていた連中は、「アメリカでは年間1~2万人もインフルエンザで死んでるんだ。そんなことも知らないのか。それに比べたら新型コロナでは大して死んでないじゃないか」と言っていました。でも、8月半ばには、アメリカでは17万人以上が新型コロナで死んでますよね。

佐藤:背景の事情を無視して、死者の数だけで事の軽重を量っていいのなら、7月に九州をはじめ各地で生じた豪雨災害だって放置して構わないことになる。亡くなった方は80名あまりです(※内閣府防災情報ページによれば、犠牲者は8/17現在で82名。「あまり」としたのは、今後増える可能性もあるため。http://www.bousai.go.jp/updates/r2_07ooame/pdf/r20703_ooame_34.pdf)
 新型コロナの犠牲者と比べても、ずっと少ない。してみると、防災もしなくていいんでしょうね。

適菜:まったく意味のない比較です。「今そんな話、していないから。あっちに行け」という話。

佐藤:「阪神・淡路大震災では6400人あまりが犠牲となったが、それが何だ。ガンでは毎年、数十万もの人が命を落とすんだぞ」、そんな主張が通用するようになったら社会は崩壊します。「世界が滅んでも、僕が毎日お茶を飲めればそれでいい」と書いたのはドストエフスキーですが、世の中にはやはり、罪とか罰とかいうものもあるわけで。

中野:ちなみに、8月18日の報道では、新型コロナはアメリカ人の死因の第三位になったそうです。「新型コロナはインフルエンザと変わらない」と高を括っていた連中の醜さは、まさかアメリカで17万人以上も死ぬなどとは夢にも思わずに「コロナを過剰に恐れるな」などと喧伝していたのに、今になってもなお、その見込みの甘さを認めないことなんですよ。そのことは彼らも半ば自覚しているのでしょう。だからこそ、自分のやましさを消すために、専門家会議や西浦先生をむきになって攻撃しているのではないでしょうか。

佐藤:いわゆるセンメルヴェイス反射ですね。

中野:しかも、専門家会議や西浦先生たちの活躍もあって、第一波をなんとか乗り越えたわけですよね。彼らのおかげで抑えられたというのに、その彼らの実績を根拠に「やっぱりコロナなんか、たいしたことないじゃないか」と騒ぎ立てたわけですから、驚きました。体張って国民を守ったら、文句を言われるんですから。

適菜:恩を仇で返す。下種ですね。

佐藤:とはいえ、センメルヴェイス反射なる言葉の存在が示すように、これも珍しいことではない。言論が玉石混交でなかったことなんてあるんですかね? むろん95%が石で、残り5%がどうにか玉。

中野:ほとんど石じゃないですか!

佐藤:これを「スタージョンの法則」と呼びます。アメリカのSF作家、シオドア・スタージョンにちなんだ名前ですが、
問題だらけの言説が出てくること自体は当たり前なんですよ。あとは聞く側の見識の問題です。

(第2回へ続く)

 

中野 剛志
なかの たけし

評論家

1971年、神奈川県生まれ。評論家。元京都大学大学院工学研究科准教授。専門は政治思想。96年、東京大学教養学部(国際関係論)卒業後、通商産業省(現・経済産業省)に入省。2000年よりエディンバラ大学大学院に留学し、政治思想を専攻。01年に同大学院にて優等修士号、05年に博士号を取得。論文“Theorising Economic Nationalism”(Nations and Nationalism)でNations and Nationalism Prizeを受賞。主な著書に『日本思想史新論』(ちくま新書、山本七平賞奨励賞受賞)、『TPP亡国論』(集英社新書)、『日本の没落』(幻冬舎新書)など多数。最新刊は『日本経済学新論』(ちくま新書)は好評。KKベストセラーズ刊行の『目からウロコが落ちる 奇跡の経済教室【基礎知識編』』は重版10刷に!『全国民が読んだから歴史が変わる 奇跡の経済教室【戦略編】』と合わせて10万部。


佐藤 健志
さとう けんじ

評論家

1966年東京都生まれ。評論家・作家。東京大学教養学部卒。1989年、戯曲「ブロークン・ジャパニーズ」で文化庁舞台芸術創作奨励特別賞受賞。主著に『右の売国、左の亡国』『戦後脱却で、日本は「右傾化」して属国化する』『僕たちは戦後史を知らない』『夢見られた近代』『バラバラ殺人の文明論』『震災ゴジラ! 』『本格保守宣言』『チングー・韓国の友人』など。共著に『国家のツジツマ』『対論「炎上」日本のメカニズム』、訳書に『〈新訳〉フランス革命の省察』、『コモン・センス完全版』がある。ラジオのコメンテーターはじめ、各種メディアでも活躍。2009年~2011年の「Soundtrax INTERZONE」(インターFM)では、構成・選曲・DJの三役を務めた。現在『平和主義は貧困への道。あるいは爽快な末路』(KKベストセラーズ)がロングセラーに。


適菜 収
てきな おさむ

1975年山梨県生まれ。作家。ニーチェの代表作『アンチクリスト』を現代語にした『キリスト教は邪教です!』、『ゲーテの警告 日本を滅ぼす「B層」の正体』、『ニーチェの警鐘 日本を蝕む「B層」の害毒』、『ミシマの警告 保守を偽装するB層の害毒』、『小林秀雄の警告 近代はなぜ暴走したのか?」(以上、講談社+α新書)、『日本をダメにしたB層の研究』(講談社+α文庫)、『なぜ世界は不幸になったのか』(角川春樹事務所)、呉智英との共著『愚民文明の暴走』(講談社)、中野剛志・中野信子との共著『脳・戦争・ナショナリズム 近代的人間観の超克』(文春新書)、『遅読術』、『安倍でもわかる政治思想入門』、清水忠史との共著『日本共産党政権奪取の条件』(KKベストセラーズ)など著書40冊以上。現在最新刊『国賊論~安倍晋三と仲間たち』(KKベストセラーズ)が重版出来。そのごも売行き好調。購読者参加型メルマガ「適菜収のメールマガジン」も始動。https://foomii.com/00171

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[caption id="attachment_1058508" align="alignnone" width="525"] ◆成功体験のある人間ほど失敗するのはなぜか
◆ 新型コロナが炙り出した「狂った学者と言論人」とは
高を括らず未知の事態に対して冷静な観察眼をもって対応する知性の在り処を問う。「本質を見抜く目」「真に学ぶ」とは何かを気鋭の評論家と作家が深く語り合った書。
はじめに デマゴーグに対する免疫力 中野剛志
第一章 人間は未知の事態にいかに対峙すべきか
第二章 成功体験のある人間ほど失敗するのはなぜか
第三章 新型コロナで正体がバレた似非知識人
第四章 思想と哲学の背後に流れる水脈
第五章 コロナ禍は「歴史を学ぶ」チャンスである
第六章 人間の陥りやすい罠
第七章 「保守」はいつから堕落したのか
第八章 人間はなぜ自発的に縛られようとするのか
第九章 人間の本質は「ものまね」である
おわりに なにかを予知するということ 適菜収[/caption]

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