ベテランの存在感とはどういうものか。カープ・石井琢朗「タク論。」
広島カープ・石井琢朗コーチの野球論、第三回
■.ベテランがリーダーである必要性はない
投手陣に黒田、野手陣には新井という、投打に一人ずつの絶対的精神的支柱がいました。 実は、このバランスこそが絶妙で、これが投手陣に黒田と新井だったり、また野手陣に新井と黒田がいたりだったりどちらの状況でもチームはうまく機能しなかっただろうと思います。つまり各部署にひとり、強い支柱がドンと立っていたことが大きかったわけです。
僕は、ベテランの存在を考えるうえで、この支柱の意味こそが重要だと思っています。精神的支柱というとどうしても「リーダー」をイメージしてしまいます。常に先頭に立ってぐいぐいチームを引っ張っていくような存在ですね。けれど、ことプロ野球、長いペナントレースを戦う上では、ベテランがリーダーを務めるというのは得策ではありません。経験的にも、ベテランがチームを引っ張ろうとすると、リーダーの調子に合わせてチーム状態まで息切れしてしまうことが多いからです。
そういう点でも、黒田と新井の立ち位置は絶妙でした。決して前に出過ぎることなく、選手会長で中堅の小窪哲也の後ろ盾となり、彼をうまく立てることによって若手を中心にチームをまとめてくれました。技術的、メンタル的なアドバイスはもちろん、ときに選手たちを食事に連れて行ったりすることでチームの状態を常にいいところに置いてくれていた(そのときの小窪の頑張りもMVP級でしたけど、それはまた改めて)。
ふたりにあるのは経験であり、それをもっと噛み砕くと、失敗も多くして来たということ。それこそ前回も書いた「失敗論」を語れる人間ということです。成功論ではなく失敗論。その沢山の失敗こそが彼らの強みです。