ベテランの存在感とはどういうものか。カープ・石井琢朗「タク論。」
広島カープ・石井琢朗コーチの野球論、第三回
■.ベテランが後ろ盾となるチームは強い
新井はカープを出て阪神に移籍しました。そこでいろんな苦労をした。おそらく、僕らの想像している以上に苦しい思いをしていると思います。黒田にしても、メジャーに渡って素晴らしい成績を上げて戻ってきましたけど、そこには人には言えない苦悩の日々もあったんだと思います。一回外に出て、苦労や失敗をして、戻って来た経験があるからこそ、精神的支柱と呼べるに相応しいベテランであったのだと思います。
それからの今シーズンはどうかというと 新井自身、今シーズンも存在感は健在で、若い野手陣を上手にまとめ上げてくれています。数字だって申し分なく、これまでの活躍は皆さんのご承知の通りです。
一方、投手陣に求められることこそ、黒田イズムの継承です。それを誰が担っていくのか。昨シーズン限りで黒田が引退し、「黒田ロス」という言葉が聞かれるようになりましたが、今のカープで言えば、黒田の10勝のロスよりも、やっぱり精神的支柱の「ロス」を埋めることができるかどうかが大きな課題になるんじゃないか、と思っています。
今回、これを書いていて思い出すのが、やっぱり1998年の横浜の日本一でした。横浜にいた僕は当時27歳。選手会長をしてチームを引っ張ろうとしていましたが、そのときずっと後ろ盾になって、困った時に助言してくれたのが駒田さんでした。ピッチャー陣で言えば阿波野さん。
ふたりとも、やっぱり「苦労」を知っているベテランでした。常に一歩引いたところから僕らを支えてくれ、ここぞというところでチームを引き締めてくださいました。そんな二人の存在がなければ、「マシンガン打線」が優勝を成し遂げることはなかったと思います。
あの時の二人と黒田と新井に共通するもの。それは「苦労」です。苦労の上に人は作られる。そんなベテランの苦労や経験、姿勢を引き継いていく中でチームも強くなって行ければなと思います。石井琢朗「タク論。」