仮面をかぶった怪人が子供を捕獲しては袋の中に放り込む、鹿児島の奇祭
ニッポンの奇祭・珍祭②
「ヒューヒュー ヒューヒュー」奇怪な叫び声を上げながら、不気味な仮面をかぶった生き物が集落を走り回る。何やら怖ろしい祭りの話。
カッパが子供をしつけ⁉ 村の掟を叩き込む通過儀礼「ヨッカブイ」
時季:例年8月22日
場所: 鹿児島県南さつま市金峰町、玉手神社
「ヒューヒュー ヒューヒュー」
奇怪な叫び声を上げながら、不気味な仮面をかぶった生き物が集落を走り回る。
彼らは「ヨッカブイ」という存在である。ヨッカブイとは「夜具をかぶる」という意味で、綿を抜いた夜具を体に巻き付けているのである。顔にかぶっているのはシュロの皮だ。
彼らは子供を追いかけまわし、捕獲してはカマスという袋の中に放り込む。そして脅すのだ。
「ガハハハハ、どうだ、ちゃんと勉強するか、親の言うことを聞くか?」
子供は本気で怖がり、泣き叫んでいる。
「聞く! 聞くから助けて!」
ヨッカブイは納得すると、子供を袋から出し、さらに新たな獲物を探し求める――。
子供にはトラウマになりそうな祭りだが、このヨッカブイは、実は大ガラッパと呼ばれる「カッパ」である。カッパが悪さをして人間を川に引きずり込むという伝承を聞いたことがあるかもしれない。
もともとこの行事は、水難事故に遭わないようにするためのものなのである。それと同時に、ちょうど男鹿半島のナマハゲのように、集落の掟を子供たちに叩き込むという目的もあるのだろう。
この後、神社でヨッカブイと子供は相撲を取る。そしてヨッカブイは、水難事故から守ってくれる水神(ヒッチドン)を祀る「高橋十八度踊り」を踊る。
そして、祭りの日の夜。誰もいなくなった神社では、カッパたちが密かに相撲を取っているという――。
〈『一個人』2017年8月号より構成〉