和歌山県の山奥、白塗りの不気味な男が「笑え笑え〜」と囃し立てる謎の祭り
ニッポンの奇祭・珍祭③
「永楽じゃ、笑え笑え〜、笑え笑え〜」「ワッハッハ、ギャッハッハ、ヒッヒッヒ……!」山奥に爆笑が響きわたる。ピエロのような化粧をした男が神輿を従え、ひたすら笑い続ける祭りがあった。
白面の奇人が人々を爆笑の渦に巻き込む「丹生(にう)祭」
時季:例年10月体育の日直前の日曜
場所:和歌山県日高郡日高川町、丹生神社
「永楽じゃ、笑え笑え〜、笑え笑え〜」「ワッハッハ、ギャッハッハ、ヒッヒッヒ……!」
山奥に爆笑が響きわたる。ピエロのような化粧をした男が神輿を従え、ひたすら笑い続ける――。
ここ、和歌山県の山奥にある日高川町で行われる笑い祭りは、白塗りの不気味な笑い男がどこからともなく現れ、集落を爆笑の渦に巻き込んでいく祭りである。
祭りの起源としては、こんな話が伝わっている。祭りの行われる丹生神社の祭神である丹生都姫命(にうつひめのみこと)が、あるとき神の集まる会議に参加しようとしたが、つい朝寝坊して出席できなかった。丹生都姫命が落ち込んで神殿に閉じ籠もってしまったので、心配した村人たちが「笑え笑え〜」と囃し立てて慰めたという。
日本では古来、笑いは邪気を吹き飛ばすものとされていた。『古事記』にも天岩戸(あまのいわと)の中に隠れてしまった天照大神(あまてらすおおみかみ)を、笑いで気をひいて外に連れ出すシー
ンが描かれている。
笑い祭りは江戸時代に始まるとされているが、この奇矯な笑い男が出現したのは戦後のことである。化粧もかなり変遷してきて、かつては「天才バカボン」のような渦巻きを頬に描いていた。笑いは時代とともに移り変わる。笑い男は、常に新しい笑いに挑戦し続けてきたのだろう。
〈『一個人』2017年8月号より構成〉