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【非常事態宣言下の感染管理】求めるべきは安心ではなく、安全《岩田健太郎教授・感染症から命を守る講義㊺》

命を守る講義㊺「新型コロナウイルスの真実」


 なぜ、日本の組織では、正しい判断は難しいのか。
 なぜ、専門家にとって課題との戦いに勝たねばならないのか。
 この問いを身をもって示してたのが、本年2月、ダイヤモンド・プリンセスに乗船し、現場の組織的問題を感染症専門医の立場から分析した岩田健太郎神戸大学教授である。氏の著作『新型コロナウイルスの真実』から、命を守るために組織は何をやるべきかについて批判的に議論していただくこととなった。リアルタイムで繰り広げられた日本の組織論的《失敗の本質》はどこに散見されたのか。敗戦から75年経った現在まで連なる教訓となるべきお話しである。


■「安心」を求めない

 ここからは、感染症に対峙するための心構えについて、ぼくが思っていることをお話ししていきます。

 感染症と向き合う上でまず大切になるのは、「安心を求めない」ということです。
 よく「安全・安心」とひとまとめにした言い方がされますが、この「安全・安心」というのは間違ったコンセ プトです。ぼくの知る限り他の国には、英語圏にもフランス語圏にもスペイン語圏にも、「安全・安心」という 言い方はありません。というか、そもそも「安心」という言葉がないのです。

「安全」ならあります。英語ならsafetyとかsecurityが、安全に相当するコンセプトです。

 では「安心」って、英語でどう表現すればいいのか。あえて言えば〝peaceful state of mind(精神の平和) 〟とか〝free from concerns(心配からの解放)〟みたいな言い方になるでしょうか。

「安全」は、現実に存在しています。「ここにある危険を取り除けば、安全になる」みたいに、リスクマネジメ ントをきっちりやることで危険性が除去、あるいは低減された状態を、ぼくたちは「安全」と呼んでいます。

 それでは一方の「安心」とは何でしょうか。これは、現実に存在する「安全」に加えた、追加的な概念です。

 対策を行った結果生まれた「安全」からは外れたところに、もう一つ「安心」という概念があるのです。

  だとしたら、例えば「交通事故を防止するために、こういう手段を取りました」といって生まれた「安全」に 加えて、「さらに安心のために何かをします」というとき、その「安心」って一体何なんでしょうか。

 そこに存在するのは、「安心したい」という願望なんです。「大丈夫だと信じたい」という欲望なんです。安心とは、願望、欲望にすぎない。だから実在しないのです。リアリティとは離れたところで、もうひと押し。「 何か気分を良くしてください」ということなんです。

 ぼくに言わせると、安心は麻薬みたいなものです。

 何かの病気に罹っているときは、本来は病気を治さないといけません。そのためにはいろんな治療が必要でし ょう。

 だけど、「私はもう、とにかく安心したいんだ」というときはどうするか。麻薬を打てばいいんですよ。そうすると、病気の痛みは消える。本人からすれば「ああよかった、痛みがなくなった」と思える。でも、病気はどんどん進行していくわけです。

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岩田 健太郎

いわた けんたろう

1971年、島根県生まれ。神戸大学大学院医学研究科・微生物感染症学講座感染治療学分野教授。神戸大学都市安全研究センター教授。NYで炭疽菌テロ、北京でSARS流行時の臨床を経験。日本では亀田総合病院(千葉県)で、感染症内科部長、同総合診療・感染症科部長を歴任。著書に『予防接種は「効く」のか?』『1秒もムダに生きない』(ともに光文社新書)、『「患者様」が医療を壊す』(新潮選書)、『主体性は数えられるか』(筑摩選書)など多数。


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