【非常事態宣言下の感染管理】間違いよりも、自分の間違いをすぐに認めて前言撤回できる、朝令暮改できることが大事《岩田健太郎教授・感染症から命を守る講義㊼》
命を守る講義㊼「新型コロナウイルスの真実」
なぜ、日本の組織では、正しい判断は難しいのか。
なぜ、専門家にとって課題との戦いに勝たねばならないのか。
この問いを身をもって示してたのが、昨年2月、ダイヤモンド・プリンセスに乗船し、現場の組織的問題を感染症専門医の立場から分析した岩田健太郎神戸大学教授である。氏の著作『新型コロナウイルスの真実』から、命を守るために組織は何をやるべきかについて批判的に議論していただくこととなった。リアルタイムで繰り広げられた日本の組織論的《失敗の本質》はどこに散見されたのか。敗戦から75年経った現在まで連なる教訓となるべきお話しである。
■「ぶれる」ことを許容する
人間は感情の動物です。だからパニックにも陥るし、ヒステリックにもなる。トイレットペーパーだって買い占めたくもなる。
ぼくは、トイレットペーパーを買い占めることは間違ってると思うけれど、それを愚かだとは思わない。間違 ってるかどうかと、それを嘲りや罵倒の対象にしていいかどうかは、また別の問題ですよ。
人間は、そもそも間違えるものです。だから、間違えることそのものはどうってことないし、「間違えない人」がいるとすれば、認識そのものがかなり危ない。「自分は間違ってない」と思った瞬間、その人は大きく間違えてるんですよ。
逆説的ですけど、「自分は間違えてるかもしれない、パニックになっているかもしれない」という、自分に対 する健全な猜疑心を保ち続けている人のほうが間違えにくいんです。
ダイヤモンド・プリンセスで起こったのは、「自分たちは間違えてない」という確信を持ってしまったがゆえ の間違いでした。例えば、二次感染が起きたなら、二次感染が起きたことを認めてしまえばよかった。そうせず に「起きてない」という物語にしがみついてしまったことこそが最大の問題だったわけですね。
だから、間違えることそのものよりも、「自分は間違えない」という発想のほうが、はるかに危ない。
だからこそ、ぼくたちはもっと間違いに寛容であるべきです。ちょっとヘマしたっていいじゃないですか。
孫正義さんが「もっとPCRをできるようにしよう」と言ったときに、「それはやめてくれ」と方々から声が上がったので、孫さんはすぐに「やっぱりやめます」って言いましたよね。あれを見てぼくは「孫さんって、さすがだな」と思いました。自分が間違ったと思ったら撤退することができるって、あの人はやっぱり、只者じゃ ない、偉い人だと思いました。
だから、間違えることは大した問題じゃない。それよりも、自分の間違いをすぐに認めて前言撤回できる、朝令暮改できることが大事なんです。
徹頭徹尾、首尾一貫して常に言うことが変わらない、「ぶれない人」こそが怖い。「ぶれる」のはいいことな んですよ。だって、この新型コロナウイルスって、誰も経験したことがない未曾有の体験ゾーンなわけですよ。
未経験なものに対してはぶれないというほうがどうかしている。
新しい情報が入ってきたら、「それは知らなかった」と言って方向を変えるのが当然です。ぼくも、フェイクの情報をシェアしてしまったことがありました。イタリアで高齢者の方には人工呼吸器を使わない、という 報道を真に受けてしまってリツイートしたのです。でも、デマだと分かったらすぐに謝って取り消しました。これだけ情報が氾濫していたら、裏を取れずに間違えることだってありますよ。だからこそ、自分の間違いが分か ったら素直に認めて、すぐに方向転換することが大事です。
間違いは大した問題じゃない。だからこそ寛容であること、そして自分に関係のないことはほっとくことが大 切です。芸能人が覚醒剤を使っても、ほっとく。それは警察が何とかしてくれることで、自分が怒る話じゃない 。
子供が公園で遊んでてもほっとく。それで自分にウイルスが撒き散らされるわけじゃない。怖かったら近づか なければいい。「外で遊ばせる親はけしからん」とか言わない。
世の中にはいろんな人がいるので、ほっときゃいいんですよ。自分に実害があるときだけは不寛容になる。
でも、ぼくが言う「寛容である」には唯一の例外があります。不寛容に対しては、絶対に不寛容であるべきで す。「あの人は黒人を差別してるけど、別に知らん」とか、「あの子がいじめられてるけど、別に知らん」みた いな態度、つまり不寛容に対しても寛容な態度を取ると、それは差別主義になってしまいます。
(「新型コロナウイルスの真実㊽」へつづく)
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