禁欲的な「ストア派」哲学。源流を作ったディオゲネスの奇妙な生き様
天才の日常~ディオゲネス<第3回>
ディオゲネスの死
ディオゲネスは90歳近くまで生きた。死に方についてもいくつかの奇妙な逸話が残されている。
ある人は、彼が生のタコにあたって死んだと言う。ある人は、犬たちにタコを分け与えようとしたところ咬まれて死んだと言う。またある人は、彼が自ら息をするのをやめて死んだと言う。体育場で外套にくるまっているディオゲネスを見つけたら既に息絶えていたため「彼はもうこの世に留まりたくなくなったのだ」と思ったと話す人もいる。
生前、ディオゲネスは、死んだ後は頭を下にして埋めるようにと話していた。何故かと聞かれると「もうすぐ下にあるものがひっくり返って上になるからだ」と答えた。 また、他の人に対しては、死んだら埋葬せずに野獣にでも食わせるか川に投げ捨ててくれと言っていたそうだ。
師匠がこんな具合だったせいなのか、彼が亡くなると誰がどのように埋葬するかということで弟子たちの間につかみ合いの喧嘩が生じてしまった。最終的には、城門の近くに埋葬され、墓標として大理石で作られた「犬」が置かれたそうだ(注:プラトンに「犬」呼ばわりをされて以降、ディオゲネスは「犬」を自称するようになっていた)。 それにしても、何故ディオゲネスはこんな奇妙な生き方をしたのだろうか。それは、多くの人が望む快楽に満たされた享楽的な生活とは違う生き方、貧しい生き方をすることで、魂を鍛錬し、欲望を乗り越えることで、徳を実践する生き方を送れるようになるからである。
このようなディオゲネスの考え方は、弟子たちを通してやがて「ストイック(禁欲的)」という言葉の語源ともなる「ストア派」の哲学へと継承されていく。キケロ、セネカ、マルクス・アウレリウスといったローマの哲人たちは、節制と道徳的な生き方を重んじたが、そのルーツにはディオゲネスの奇妙な生き方があったのである。
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