39歳、ふたりで始めた不妊治療。思わぬ壁
産まないことは「逃げ」ですか④
オカズは『ザ・ベスト』
2回目は彼も一緒に行った。精子をとるためである。新幹線でやってきて、取精室なる個室にて、セルフで精子を絞り出す。その中から即座にイキのいいヤツだけが選ばれて、保存される。ちなみに取精室にあった起爆剤(要はオカズ)は、『ザ・ベスト』(KKベストセラーズ)と美人OLモノのAVだったそう。へぇ。院長の趣味かな。渋いな。
ひとまずそこで男性側の任務は終了である。つくづく思う。いいよなぁ。痛いとか面倒くさいとかツライがないんだから。女性は、まず性感染症などの検査を受け、妊娠に適しているかどうかを調べた後、排卵日を待たねばならない。そして、排卵日に卵子をとるために地獄の通院が始まる。こまめに血液検査を受けてエストロゲンなどのホルモン値を計り、採卵に向けて準備態勢をとる。
実はそこにふたつの障壁があった。ひとつめは、なんとクラミジアに感染していたことが発覚したのだ。思い当たるフシはある。私にも彼にも。こまめに婦人科検診を受けていたのに。と、書くとまるで彼が感染源かのように思われてしまうではないか。彼の名誉のためにも、記しておく。婦人科で内診は受けていたが、性感染症の検査をオプションで受けていなかったのである。だから、私がもっていた可能性が高い。
そして、ふたつめ。私が行った超有名な不妊専門のクリニックでは、体外受精に関して、入籍が必須条件だった。知らなかった……。籍を入れていなくてもOKな病院はたくさんあると聞いていたのに。あれはセレブや有名人に限った話だったのか。
体外受精の前に、まずはクラミジア治療と入籍が必要だったのだ。ブームに乗っかったつもりはないが、いわゆる震災婚だ。ただし、正統派の震災婚ではない。不妊治療を開始して、必要に駆られて入籍したのだ。しかも慌てて入籍。
〈『産まないことは「逃げ」ですか?』(著・吉田潮)より構成〉
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