第34回:「二度寝を最高のものにする」(前編)
<第34回>
5月×日
【「二度寝を最高のものにする」(後編)】
みなさん、惰眠、貪っていますか?
僕は、貪っています。
よく「眠るのが趣味」と発言する人がいるが、僕の場合、眠ることは「趣味」どころの騒ぎではない。なんというか、愛している。眠りそのものに、恋をしている。僕がジョンなら、眠りはヨーコ。僕がコアラなら、眠りは三原じゅん子。そのくらい、眠りと一生を添い遂げる覚悟で生きているし、よく考えたらコアラと三原じゅん子は離婚していたので、例えとしては不適切だった。
あなたにも、こんな経験はないだろうか。
朝、起きる。すると、早くも布団の上で、マクラをぎゅっと抱きしめながら「早く夜にならないかなあ」などと次に眠れる時間を待ち遠しく想っている自分がいる。
これは、恋人とデートの帰り際に互いの手を握りしめながら「早く次に会える日にならないかなあ」などと寂しさを漂わせながら会話するのと、なんら変わりがない。
もしくはこんな経験もあるのではないだろうか。
夜、布団にもぐる。そして部屋が闇に溶けていく中、こんなことを思う。「このまま、朝日が昇らないで、ずっと夜ならいいのに」。
これは、恋人との逢瀬の中で、「ずっとキミと一緒にいれたらいいのに」と思うことと、まったく同じである。
そう。眠りとは、恋人であったのだ。
僕はとにかく四六時中、眠ることを考えている。リスがドングリのことしか考えていないように、引退した力士がちゃんこ鍋屋経営のことしか考えていないように、三原じゅん子がコアラのことしか考えていないように、僕は眠ることしか考えていないし、三原じゅん子は現在は政治のことしか考えていないのでまたしても例えとしては不適切であった。
眠ることに対して貪欲な僕は、ときに強引なアプローチでもって、眠りを引き寄せることがある。
たとえば、15時間も寝続けて、目覚めたある昼過ぎ。寝過ぎて、頭が痛い。ノロノロと布団から這い出る。カーテンをあけ、のびをする。そして次の瞬間、こんなことを思っている。
「もう、眠りたい」。
狂人と思われてもしかたないとは思う。しかし、眠りたいものは、眠りたいのだ。
だが、15時間も睡眠を摂ってしまったあとでは、さすがにすぐさま眠りをコンティニューすることは不可能だ。そこで僕は靴を履き、玄関のドアをあける。どこへ向かうのか?デパートである。
街の、伊勢丹やらマルイといった、適当なデパートに入る。僕は昔から「デパートを歩いていると眠くなる」という特性を持っている。元来のショッピング嫌いに加えて、人ごみの中を無意味に歩きまわることで蓄積される疲労感と、デパート特有の弛んだ空気感とがあいまって、僕の瞼はしだいに重くなっていく。
そうなったらしめたもので、その掴んだ「眠りの尻尾」を大事に大事に落とさないように持ち帰り、すぐさま布団へと潜り込む。
ただ眠るためだけにデパートへと赴く。僕がいかに眠りに対して身も心も捧げて生きているのか、わかっていただけたと思う。
そんな「睡眠至上主義者」の僕にとって、最も素晴らしい時間がある。
二度寝をする瞬間だ。
(次回へ続く)
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