なぜ彼は「欲しいものは高くても買う」と考えるに至ったのか?
使い勝手が良いこと…きっと人の数だけ正解が存在する永遠の難問。
その人の生き方が見えるもの、それもまた、ひとつの定義だ。
“良いもの”と暮らす方々に、「私の好きなもの」を訪ねて。
注:文中の内容は2016年秋取材時のものです。
【My Favorite Things #002】
作り手の顔が見えるもの。
野田 晋作さん 〈ベイクルーズ〉上席取締役副社長CUO
打ちっ放しの壁に囲まれた吹き抜けの天井から、心地よい光が降り注ぐメゾネットの一室。「サーフボードが縦に置ける部屋に住みたくて、2年前に引っ越してきた」と語る野田さんだが、最近はライフスタイルに少し変化が出てきたとのこと。
「昔はサーフィンも年間60回ぐらい行ってたんですが、今は年に3回ぐらいしか行けなくなってしまいました。料理をしていた頃は友達を招いて食器類も活躍していたんですが、最近は忙しくてまったくです。もっぱら自宅には寝に帰るだけという日々が続いています」
そんな生活環境の変化の中でも、変わらないのが「作り手の顔が見えるもの」へのこだわりだ。
「モノを見てどこのものか分からないっていうのが一番嫌なんです。いろんなものがデジタルになって効率化されている反面、昔ながらの手仕事というか、そういうものは変わらずに大事にし続けています。でもほっこり系ではなく、横ノリな匂いは少し欲しい。微妙なバランスなんですよね」
確かに野田さんの部屋にあるモノひとつひとつからは、作り手の顔が見えるだけでなく、買った本人の意志が強く感じられる。「欲しいものは高くても買う」ーーそう語る彼にはある原点の出来事があった。
「約15年前に千駄ヶ谷のギャラリーでマーク・ゴンザレスの個展をやっていて。当時25歳の僕には2~3万の作品ってすごく高価で、すごくいいなとは思ったけど洋服とかを優先して結局買わなかったんです。でもあとですごく後悔した。アートピースとか骨董とか、生活必需品じゃないものってつい後回しになって買わないじゃないですか。でもそういう原体験があったので、欲しいものは多少無理しても買おうと。それに自分が使わなくなっても、誰かの手に渡ればモノは繋がっていく。必ず意味はあると思います」