天下人が名古屋を「都」にしなかった理由
日本の異界 名古屋⑬
成功したら帰りたくない街
秀吉などは、中村のサルだがや、と言われてしまう。殿様の草履をあたためとった奴が関白様だと言われても、どうしたって昔の姿を思い出してまうがや、と言われる。だから秀吉は名古屋に帰りたくなかったのではないだろうか。
家康ならば、那古野城の人質だがや、と言われてしまう。そのあと今川の人質だわさ。人質殿が将軍様だと言われても、実感がわかんなあ、というのが名古屋人なのだ。
というわけで、名古屋は天下を取るのに絶妙の位置にあるのだが、天下を取ったあと帰りたいところではないのだ。戻ったら、ツレ・コネクション(なれあい)の中に引きずり落とされてしまうから。
それで名古屋は、とうとう日本の都になることがなかったような気が、私にはする。
成功したら帰りたくない街、それが名古屋なのだ。
清水義範著『日本の異界 名古屋』(ベスト新書)では、尾張藩の歴史や奇才藩主徳川宗春と吉宗にまつわる話などがユーモラスかつわかりやすく紹介されている。