本のプロ「目からウロコがぼろぼろ落ちまくる」
本のプロが読む、森博嗣『道なき未知』(精文館書店中島新町店 久田かおりさん)
「生きにくさに悩める仔羊たちにとって、救いの一冊となる」
――精文館書店中島新町店・文芸担当 久田かおり
例えば誰かに「いつも独りぼっちです。どうしたら友だちができますか」と聞かれたら、そばにいる人にまず自分から話しかけてごらんとか、同じ趣味の人を探してみようとか、あるいは誠意をもって人の話を聞いていたらいつか分かり合える人が見つかるでしょうと答えるだろう。常識的で表面的な考えを基に、空気を読むことで自分を殺し、周りに合わせることが正しいと、ずっと教えられてきたので。
けれど、それって本当に自分のためになるのか? 独りぼっちじゃダメなの? 友だちがいないのは悪いこと? 周りに気を遣うのがあたりまえ? 森先生の答えは痛快である。痛快でさっぱりとしていて健康的だ。そんなこと今まで誰も言ってくれなかったぞ、と目からウロコがぼろぼろ落ちまくる。
まぁ、自宅庭園に敷いたレールの上を手作りの鉄道を走らせる資金は貯まったので、と教授職も新規執筆も早々にリタイアした森先生の生き方はとても凡人には真似できるものじゃないけど、その思考や思想、理論や哲学はいろんな意味で刺激となり、蒙をぐわっと啓いてくれる。
具体的なことは本書を読んでいただくとして、気を遣いすぎてがちがちに凝った脳みそをさっぱりとほぐし、目に見えない「常識」という狭い檻から解き放ち、本当に大切なことは何なのかを教えてくれる。このエッセイは、生きにくさに悩める仔羊たちにとって、救いの一冊となるだろう。
(精文館書店中島新町店・文芸担当 久田かおり)
【第38回 言葉より数を見る】
【第39回 「甲斐」VS「やすい」】
【第40回 掃除をした人は綺麗に見える】
(著者プロフィール)
森博嗣 もり・ひろし
1957年愛知県生まれ。工学博士。某国立大学工学部建築学科で研究をするかたわら、1996年に『すべてがFになる』で第1回「メフィスト賞」を受賞し、衝撃の作家デビュー。以後、続々と作品を発表し、現在までに300冊以上の著書が出版され人気を博している。小説に『スカイ・クロラ』、『ヴォイド・シェイパ』、『ダマシ×ダマシ』、『青白く輝く月を見たか?』など。エッセィに『自分探しと楽しさについて』、『小説家という職業』、『科学的とはどういう意味か』、『孤独の価値』、『作家の収支』、『夢の叶え方を知っていますか?』などがある。