作家・森博嗣の「誰にも媚びない言葉」が胸を刺す
本のプロが読む、森博嗣『道なき未知』(谷島屋営業本部バイヤー 細川さん)
「誰にも媚びない言葉の数々が、子供の頃に教えられた言葉に疑問を抱いている大人の中に何の抵抗もなく入ってくる」
――谷島屋営業本部バイヤー 細川
子供の頃、多くの人が、「努力は報われる」「努力は苦しいもの」「人に迷惑をかけない生き方をしよう」「とにかく頑張れ!」「自分の道を探すんだ!」と教えられてきたはずだ。それは親だったかもしれないし、先生だったかもしれない。テレビの中のスポーツ選手や芸能人、もしかしたら近所のおじさんやおばさん達だったかもしれない。子供の頃には疑うこともなく、耳に聞こえが良いそれらの言葉を信じてきた方が大半だと思う。
自分の“道”を探すために、人は努力し、苦しみ、挫折し、他人の成功書を読み…ということを繰り返しているのだろう。私も書店員という仕事柄、過去に何冊かの人生哲学書を読んできた。そこに書かれていることの大半が、冒頭に挙げた言葉の焼き直しというか、「それは分かっているんだけど…」ということが大半だったと思う。
だが本書のように、目から鱗が落ちるような、今までモヤモヤしていたものがスーッと消えていくような感覚になる書籍はほぼ見当たらない。それは、森さんがきれいごとではない、自身が歩んできた体験や思考を包み隠さずにさらけ出しているからではないだろうか? 誰にも媚びない言葉の数々が、子供の頃に教えられた言葉に疑問を抱いている大人の中に何の抵抗もなく入ってくる。それが心地よい。森さんが“天の邪鬼(あまのじゃく)”だからこそ出来ることなのだろう。
(谷島屋営業本部バイヤー 細川)
【第38回 言葉より数を見る】
【第39回 「甲斐」VS「やすい」】
【第40回 掃除をした人は綺麗に見える】
(著者プロフィール)
森博嗣 もり・ひろし
1957年愛知県生まれ。工学博士。某国立大学工学部建築学科で研究をするかたわら、1996年に『すべてがFになる』で第1回「メフィスト賞」を受賞し、衝撃の作家デビュー。以後、続々と作品を発表し、現在までに300冊以上の著書が出版され人気を博している。小説に『スカイ・クロラ』、『ヴォイド・シェイパ』、『ダマシ×ダマシ』、『青白く輝く月を見たか?』など。エッセィに『自分探しと楽しさについて』、『小説家という職業』、『科学的とはどういう意味か』、『孤独の価値』、『作家の収支』、『夢の叶え方を知っていますか?』などがある。