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NHK「パパ活」報道は「セックスワーク」に対する認識と敬意不足を露呈(藤森かよこ)

セックスワーカーはエッセンシャルワーカーである

セックスワーカーがかわいそうなんて、いつの時代の感覚か?

 さすがに、現代の女性セックスワーカーについて、江戸時代の遊郭に身売りされて平均年齢19歳や20歳で亡くなった「苦界(くかい)の女」イメージでとらえているようなことは消えた。しかし、それでも未だにそれに近い見方の残滓(ざんし)はあることを、NHKの番組を見て私は感じた。

 セックスワークに従事する女性たち(男性もいるだろうけれども、本文では話を女性セックスワーカーに限定する)を、「気の毒で可哀そう」と見るのは、明らかに間違っている。

 政治の失敗による国民の生活苦を経済政策で解消するには時間もかかる。経済政策というものは、ほぼ失敗するものである。雇用状況が好転するまで、じっと待ってはいられない。公的支援には限界がある。懸命にもそう判断した女性たちが、自衛策でセックスワークというビジネスに従事すること自体に問題はない。収入があれば助かるのだから、できることをして稼げばいい。

 実際にはセックスワーカーもいろいろだ。週日毎日9時から17時まで就労すること(業界用語で昼職と呼ぶ)が何らかの理由でできないので、風俗産業やデリヘル産業で働いている女性がいる。不特定多数の男性に性行為というサービスを提供することが苦にならない女性もいる。若さが売り物になる短期間に大金を稼ぐという明確な目的をもって全集中の呼吸でセックスワークに励む女性もいる。就労時間を自由に選べるし、実労働時間のわりに収入がいいということで、デリヘリをアルバイトにしている子育て中の既婚女性もいる。

 風俗店にしろデリヘル店にしろ、現代日本のセックスワーカーの状況が知りたい方は、鈴木傾城(すずきけいせい)の『野良犬の女たち—ジャパン・ディープナイト 』(セルスプリング出版、2020)やデリヘル嬢と会う—彼女は、あなたのよく知っている人かも知れない』(Amazon Services International, Inc.,2017)や、『デリヘル嬢と会う2—暗部に生きる女たちのカレイドスコープ』(Amazon Services International, Inc.,2018)を読むといい。3冊とも電子ブックのみです。

 みな自由意志でセックスワーカーを選んだのであって、「生活苦の若い女性みんな」がパパ活をするわけではない。一種のセックスワークであるパパ活を、主体的に選んだ女性たちを一方的に被害者とか犠牲者として見ることは女性尊重に見えて、女性に同情しているように見えて、女性蔑視だ。

 このあたりの事情は、中村うさぎ編著『エッチなお仕事なぜいけないの?』(ポット出版プラス、2017)を読んでみてください。現役のセックスワーカーの女性たちの率直正直な対談が収録されている。編著者のエッセイストであり漫画家の中村うさぎ自身が一時期デリヘリで働いていたので、言葉に説得力がある。

 『エッチなお仕事なぜいけないの?』において展開される現役セックスワーカーたちの知見が面白い。「イケメンと巨根はテク(ニック)がない」とか、男性は女性よりも繊細なので、「マンコって嘘つけるけれど、チンコは嘘つけない」とか。

次のページセックスワークに暴力が生じやすいのは、セックスワークはエッセンシャルワークであるという認識が足りないから

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藤森 かよこ

ふじもり かよこ

1953年愛知県名古屋市生まれ。南山大学大学院文学研究科英米文学専攻博士課程満期退学。福山市立大学名誉教授で元桃山学院大学教授。元祖リバータリアン(超個人主義的自由主義)である、アメリカの国民的作家であり思想家のアイン・ランド研究の第一人者。アイン・ランドの大ベストセラー『水源』、『利己主義という気概』を翻訳刊行した。物事や現象の本質、または人間性の本質を鋭く突き、「孤独な人間がそれでも生きていくこと」への愛にあふれた直言が人気を呼んでいる。

 

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