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「名古屋の嫁入りはド派手」説、その真実はどうか

「名古屋の嫁入り」は他地域にもある 真実の名古屋論④

「事実と全く違うトンデモ言説を流す評論家や研究者がいる。それがマスコミによって流され、公的出版物にまで掲載されてしまう。こうして、事実に反する言説が認知されつつある。」この状況こそ〝知の怠惰〟ではないのか。名古屋に関するトンデモ言説を拡大鏡にしてみれば、それはまさに日本の知の堕落が透けてみえると語る呉智英氏。『真実の名古屋論〜トンデモ名古屋論を撃つ』を上梓したばかりだ。今回「名古屋の嫁入りはド派手」説についてそのバカげた言説の虚実を分明する!

根拠なき「名古屋の嫁入りは派手」説

 

 名古屋の嫁入りは派手だと言われる。結婚式の演出が派手かどうかではなく、嫁入りという行事全体に多額のお金をかけるという意味である。誰が、いつ頃、どこと比較して、何を根拠に、そう言い出したのか、はっきりしないが、何となくそう言われている。現実にそうであろうとなかろうと、一度そうだとなると情報の自己増殖が起きる。これを助長しているのが、日本で唯一人の県民性評論家岩中祥史である。それを無定見のマスコミが取り上げ、そうだそうだということになり、ますますそれが広がる。こういった現象は、別に名古屋の嫁入りに限らず、あらゆることに観察できる「俗論形成」である。

 実際、銀行や保険会社や情報誌などが行なう消費動向のアンケート調査を見ても、名古屋の嫁入りが特に派手だという結果は出ていない。

 結婚情報誌『ゼクシィ』(リクルート)の2011年の調査は全国から11地域を選んで、結婚に関わる費用などの項目別アンケートを集計している。これによると、1位に挙がるのは、新潟、北陸、九州、首都圏であり、最下位はほとんど北海道である。この中で、名古屋を中核とする東海地方(愛知・岐阜・三重)は挙式・披露宴の平均総額でいえば第7位である。要するに「名古屋の結婚式」のお金のかけ方は全国の中間ぐらいだということになる。過去の類似の調査でも、北陸や九州が結婚式にお金をかける地方だという結果が出ている。

 これらの調査結果は、冷静に考えてみれば納得できるものである。

 首都圏が上位に挙がるのは、意外なようで意外ではない。まず、東京の方が他の地域よりホテルや結婚式場などの費用が高い。また、大企業の経営者一族など富裕層の多くは首都圏に住んでいる。結婚式は豪華になり、必然的に上位に入ることになる。

 

 北陸や九州は血縁・地縁社会が生きている。反対に、北海道は明治以後内地から移住した人が多く、血縁・地縁の結びつきが弱い。結婚は男女二人が結びつくことであるのだが、家族を形成して社会全体とつながることでもある。そうであれば、血縁・地縁のつながりも、好むと好まざるとにかかわらず、無視できない。結婚式など冠婚葬祭は一族や地域の行事という側面も持っている。そのため、血縁・地縁のつながりが強いところでは結婚式にお金をかけることになる。『ゼクシィ』などの調査結果はこうした社会事情を反映していると言えよう。

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呉 智英

ご ちえい

評論家。昭和21年(1946年)、名古屋市生まれ。早稲田大学法学部卒業。評論の対象は、社会、文化、言葉、マンガなど。日本マンガ学会発足時から十四年間理事を務めた(そのうち会長を四期)。東京理科大学、愛知県立大学などで非常勤講師を務めた。著作に『危険な思想家』『現代マンガの全体像』『現代人の論語』『吉本隆明という共同幻想』『つぎはぎ仏教入門』ほか。名古屋市在住。


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